それから、23年の時を経た1935年4月。イギリスからカナダに向け航行中の貨物船があった。船上で見張りに立つ水夫ウイリアム・リーブスは、この時、タイタニック号の事故に思いを馳せていた。すると、穏やかだった海が様相を変え始め、やがて視界が効かなくなった。タイタニック号が氷山と衝突した夜のように。奇しくも見張りが終わる時間は、タイタニック号が氷山と衝突した時刻。そして日時が1912年4月14日。それはリーブスの生年月日でもあった。
卒然として襲われた恐怖に、リーブスは警報を鳴らした。エンジンは全速後進、逆回転を始めたスクリューは海水を撹乱させ、貨物船は停止した。数メートル前方には、そびえ立つ巨大な氷山が迫り、周囲に目をやると、無数の氷山がひしめいていた。それが、如何に危険な状況だったかは、救援の砕氷船が海路を切り開くのに要した日数が9日だったことから窺える。
シンクロニシティがもたらせた幸運だろうか。貨物船の名は「タイタニアン号」。更に、タイタニック号の事故を予言した小説と話題になった、モーガン・ロバートソンの小説に出てくる船の名は「タイタン号」。シンクロニシティは連鎖している。
(七海かりん/山口敏太郎事務所)