その伝承は東北地方に多く聞かれ、文献によっては、精霊的なものとも、妖怪ともいわれている。
第一の特徴はその名が示す通り、子供の霊である。また、「見た者には幸運が訪れる」「富をもたらす」ともいわれている。
座敷童子で有名な「緑風荘」という旅館が岩手県にある(現在は営業停止中)。
一般客はもちろんのこと、総理大臣になった数名をはじめ、多数の各界著名人が宿泊した際に座敷童子を目撃しており、緑風荘の名前を知っている方も多いと思う。
2009年に起きた火災で全焼したが、従業員・宿泊客は全員無事で、座敷童子を祀る中庭の亀麿神社だけは焼けずに残ったという話も有名である。
私は実話怪談を書いているが、取材した方々の中に、自宅に座敷童子が出るという方がいたので、ここに話を紹介してみたい。
恵子さん(仮名)は結婚6年目になるが、結婚した際に越してきた新居に座敷童子が出るという。
その日、恵子さんはいつものようにリビングで掃除機をかけていた。ふいに背後から視線を感じたので振り返ると、そこには7歳くらいのおかっぱ頭の男の子が立っていた。古ぼけたチャンチャンコのようなものを着ていたという。男の子は恵子さんと目が合うと駆け出し隠れてしまったが、すぐに恵子さんが家の中を探しても男の子を見つけることはできなかった。
またある時、恵子さんがヤクルトを飲もうと蓋を開け、それをそのままテーブルの上に置いたままトイレに入り、恵子さんが戻ると、中身がなくなっていた。その時、家には恵子さん以外には誰もいなかったという。
また、本棚の本が少しだけはみ出していたり、順番通りに並べてあるはずの本が入れ違っている時があるという。それはマンガ本に集中して起こる。
ヤクルトの件や本の話も、本人の勘違いや家族の仕業ということはないと、恵子さんは断言する。
恵子さんの見たモノは座敷童子なのだろうか。
確かにそうかもしれないが、ただ単に幼くして亡くなった子供の霊かもしれない。
座敷童子が、後々に幸せや富が訪れる人の前に出現するという話も、純真無垢なままこの世を去った子供がそのままの姿で現れる霊だからこそ、恐ろしさをあまり感じずに、それらを見ると幸せな気持ちにもなることで、そのような話になったのではないだろうか。
『座敷童子』という言葉の響きは悪いものではないが、出現する本人の気持ちを考えれば、必ずしもその枠にはめる必要もないように感じる。
緑風荘の座敷童子は、長年自分が住んでいた旅館が燃えるのを、どのような気持ちで眺めていたのだろう。
旅館が建て直された折には、また人々の前に現れ、幸せを分けてくれればよいのだが。
(「実話怪談記者」へみ 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/