『キャパの十字架』(沢木耕太郎/文藝春秋 1575円)
今年2月3日の夜9時からテレビ放映された『NHKスペシャル』は、沢木耕太郎がロバート・キャパの内面、なぜ危険な戦地で死をも恐れぬような行動に出ることができたのか、その心の秘奥へ迫っていく内容だった。キャパは戦場カメラマンという仕事に殉じた英雄として、今も世界中の人たちから尊敬を集めている。1954年の第一次インドシナ戦争取材時、地雷に触れ40歳の若さで亡くなった。しかし肯定的な評価ばかり受けているわけでもない。彼を一気に有名にさせた写真は、1937年『ライフ』誌に掲載された「崩れ落ちる兵士」だ。最初はスペイン内戦で兵士が撃たれた瞬間を捉えた大傑作、と反響を呼んだ。そのうち、実は本当は撃たれていないのではないか、撃たれた演技をしているだけではないか、と疑問を呈する人たちが現れ、長い間、論争が続けられてきた。
『NHKスペシャル』では、ことの真偽を解明するため沢木がさまざまな資料、最新技術、取材力を駆使していた。そして冒頭に書いた通り英雄の虚像を剥ぐことではなく、なぜ英雄的な行動ができたのか、その心の秘密へ迫るという目的意識に好感が持てた。
本書『キャパの十字架』は番組と連動して刊行されたノンフィクションである。映像では時間の関係で省略せざるを得なかった膨大なデータが盛り込まれ、はるかに中身が濃い。お薦めしたい。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『東海地震も関東大地震も起きない!』(木村政昭/宝島社・1000円)
コロンビア大学で学んだ著者によれば「東海も、東南海三連動も、首都直下型地震も起きない。日本の地震予測はかなり遅れている」という。その理由を解き明かしながら、最新データから算出した“学会騒然”の地震発生予測を公開!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
一体どんな雑誌なんだ? と興味を引かれて手にしたのがこの『アジアの雑誌』(キョーハンブックス/880円)だ。
広義にいえば旅行ガイドだが、とにかく内容が濃い! なにしろコンテンツが「歓楽街から病院まで バンコク日本語OKスポット」「タイ名物レディーボーイと戯れる」「スタジアムガイド付きムエタイを見にいこう!」など、かなり豊富。作家・岩井志麻子さんの小説、ライター&イラストレーター・のなかあき子さんのエッセイなど、連載も満載だ。
編集部がバンコクにあるらしく、現地でしか入手し得ない情報が数多く掲載されている上、全体のテーマを「ナイトライフ」に置いているため、ディープなごった煮マガジンという印象。
バンコクだけでなく、最新号ではカンボジアの山岳地帯に分け入り、少数民族と触れ合うルポも。アジアに精通したスタッフが伝える生々しい情報は、普通の観光案内とはワケが違う。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意