元来、ドラフト会議は日本プロ野球機構所属球団関係者が顔を揃え、関係者のみがホテルの一角で新人選手の交渉権を獲得するものだった。ところが、2009年から冠スポンサーが付き、「公開ドラフト」を開始。抽選で選ばれたファンが各チームのユニフォームを着用し会場を訪れ、抽選の際に贔屓球団名を叫ぶなど、歓声が上がることが定番となった。
ドラフト会議もエンターテインメントとしてしまうことに、一部からは不満の声がある。高校野球で活躍した選手しか知らず、大学・社会人野球の選手が上位指名されると、ブーイングが飛ぶことがあるためだ。
記憶に新しいところでは、2016年のドラフト会議で、阪神タイガースが事前に指名するとしていた桜美林大学の佐々木千隼投手を回避し、白鴎大学のスラッガー・大山悠輔内野手を一位指名。会場にいた阪神ファンが、「ええ?」などとざわつき、ブーイングなどを飛ばした。
大山は入団後のインタビューで「指名されたとき、ええーっと言われた。それは忘れられない」とコメント。プロ野球入りを志す若者に対する「ブーイング」に大きく傷ついたことを明かしている。佐々木と大山の現在の成績を見れば、指名は正しかったと言える。
今後、このような仕打ちを受けた場合、選手によっては「歓迎されていないのなら」と入団を拒否し、アメリカ行きや進学・会社残留を選択するケースも考えられるだろう。
「ドラフト会議の会場に来るファンと、プロのスカウトでは当然ながらアマチュア選手に対する知識量も見識も違ってくる。素人スカウト気取りよりプロの方が優れていることは火を見るよりも明らかです。
今年は高校生で大阪桐蔭の根尾や藤原、金足農業の吉田らが目玉とされていますが、東洋大学の甲斐野や上茶谷、日体大の東妻や松本、社会人野球では東芝の岡野や日本通運の生田目など、1位候補がズラリと並んでおり、高校生が1位を占める可能性は低い。
高校生しか知らないようなファンがドラフト会議の会場を訪れ、『根尾じゃない』『藤原じゃない』とブーイングするケースも考えられます。
実際、昨年のドラフトでもあまり知られていなかったDeNAの東や中日の鈴木が今年活躍していますし、巨人では『捕手採りすぎ』などと揶揄された大城や、田中俊太ら地味と言われた社会人野球出身者が活躍している。批判する人間が無知であることは明らかです。
無知で指名に口を出すような人間たちを会場に呼ぶことは、これからプロ野球に入ろうとする人間を傷つける可能性がある。彼らの門出に泥を塗るような行為を個人的にはやってほしくありません。そもそも人の人生を決めるイベントを飯のタネにし、『お母さんありがとう』などと特集するのは異常です」(野球関係者)
ドラフトを見たいと思う気持ちはわからなくもないが、ブーイングなどは慎むべきだ。大山のような思いをする選手を、出してはならない。
文・櫻井哲夫