まず、機体の破壊状況から時限爆弾によるテロと推測されたものの、犯行声明などが全く出されなかった他、爆破の目的も不明であった。さらに墜落直前にイタビア機と衝突した謎の飛行物体をレーダが感知していたものの、テロ説では飛行物体に対する合理的な説明がつかないという問題も抱えていた。ところが、イタビア機の墜落直前に1機または2機のリビア空軍機が付近のイタリア領空を侵犯しており、緊急出動したNATO軍機が追跡していた事も明らかとなったため、墜落との関係を疑われたのである。
リビア空軍機を追跡していたのはイタリア空軍機のみではなく、地中海に空母機動部隊を展開していたフランスとアメリカの海軍機も参加しており、当時の状況は非常に緊迫、かつ混乱していたとされる。リビア軍機がイタリア領空へ侵入した目的は、現在に至るまで判明していない。パイロットが亡命を試みたとも、あるいは同日にポルトガルのリスボンから飛び立った米カーター大統領の専用機を狙うテロ攻撃とも言われている。いずれにせよ、リビア軍機は空対空ミサイルによって撃墜され、機体はイタリア南部へ墜落したようだ。
問題は、その際に発射されたミサイルがイタビア機へ命中した可能性があることで、残骸の調査によっても機首に大きな穴が開いていることが判明した。つまり、機首に命中したミサイルが機内で爆発し、機内を通り抜けた爆風が後部のトイレ付近より吹き出したと推測されたのだ。そのため、乗客が機外へ投げ出されたことや、当初に機体内部での爆発と考えられたことも説明がついた。そればかりか、リビア軍機が意図的にイタビア機の経路をなぞるように飛行し、レーダーの探知を逃れようとしていた、つまりミサイルが両機を混同するように飛行していたと指摘する専門家も現れたのだ。
ところが、その仮説もまた、決定的な証拠は得られなかった。まず、イタビア機のボイスレコーダは墜落の少し前から記録がなく、決定的瞬間の音声は存在していなかった。それは、電源が瞬時に遮断されたためと説明されたが、人為的に消去された痕跡もあると指摘されている。さらに、イタリア空軍のレーダ担当者や司令官予定者、戦闘機のパイロットなどが次々と不審な状況で死亡し、関係者の証言も得られなかったのである。