“百聞は一見にしかず”とはこの事である。特に幽霊とUFOは見ないとお話しにならない。この事件からしばらくして、Tは再び怪事件に悩まされる事になる。
ある夜、私の自宅に電話がかかってきた。Tである。
「おい、うちに今から来てくれないか」Tは酷く慌てている。
「いったいどうしたんだ」私は宥めるように訊ねた。
「出た、出たんだ」
「出たって、何が……?」
「何がって ゆっ幽霊、いやっ、いや生霊だ」
「……」
ごくりと唾を飲み込むTの様子に異常を察知した私は、翌朝Tの住宅に向かった。
奴の下宿は都内、私の下宿は横浜にあり、時間にして2時間程電車を乗り継いでいく。
「おーい、いるか」
「おおっ来てくれたか、幽霊探偵さん」
Tが笑えない冗談を言う。
無理に作り笑いをするTの目の下には、隈ができていた。Tの話によるとこうである。
昨夜、遅く帰ってきたTは、そのまま布団にうつ伏せになり眠ってしまった。まあこれは、毎晩繰り返される事らしく、独身男には、よくあるワンシーンである。だがここからが違った。
Tが深い睡眠に落ちると、必ず誰かが馬乗りになり首を絞めてくるのだ。最初は窓から友人が入って来て、首を絞めているのかと思ったそうだ。だが、力の入れ方が違うというのだ。力の限り、全身を使って、思い切り絞める。…つまり、殺意があるのだ。
「誰だ!! いい加減にしろ」
Tが跳ね起きても誰もいない。そんな事が朝まで何度も続いたという。
「そいつの顔は見えなかったのか」という私の声にTはこう答えた。
「うつ伏せに俺は寝てるんだけど、そいつの背中が何故か見えるんだよ。イメージが浮かぶというのかな。犯人の姿が後ろ姿で浮かび上がってきたんだ」
「誰だ、そいつは」
「同じサークルの女の子さ、俺の事を好きらしいのさ」
片思いに胸をこがす女性の生霊は、時として死霊よりたちが悪い。
監修:山口敏太郎事務所