この報を聞いて、ヤンキースが田中の獲得を本格的に目指すことが分かった。ヤンキースはすでに10年から田中の調査を始めており、メジャー挑戦となれば、日本球界ナンバー1投手獲りに動くことになりそうだ。
ヤンキースは11年オフに、ダルビッシュ有投手(26=レンジャーズ)がポスティングシステムを使って、メジャー移籍に臨んだ際にも争奪戦に参戦。しかし、レンジャーズの落札額が5170万3411ドル(当時約40億円)だったのに対して、ヤンキースの入札額はわずか1500万ドル(当時約12億円)であったとされる。06年オフに、レッドソックスが落札した松坂大輔投手(32=現FA)の落札額が約5111万1111ドル(当時約60億円)だったことを思えば、ヤンキースの入札額は低すぎた印象がぬぐえない。
ヤンキースの根底にあったのは、「井川慶と同じ轍を踏みたくない」との思いだった。06年オフにポスティングシステムを利用した井川慶投手(33=現オリックス)は、ヤンキースが2600万194ドル(当時約30億円)で落札して入団した。
ところが、井川は1年目(07年)、14試合に登板、2勝(3敗)に終わり、2年目(08年)はわずか2試合の登板。09年から3年間はメジャー昇格することはなく、完全な期待はずれ。ブライアン・キャッシュマンGMは「井川の獲得は失敗だった」と発言し、メディアからは「ヤンキースは2600万ドル(落札金)をどぶに捨てた」と酷評もされた。
決して、井川の日本での実績が不十分だったわけではない。阪神時代の02年〜06年、5年連続で13勝以上をマークし、03年には20勝も挙げていた。
それでも、結果を全く残せなかった井川の失敗例が原因で、ヤンキースはダルビッシュのポスティングの際、慎重になり低い入札額となってしまった。そのダルビッシュに匹敵する田中がポスティングに臨むとなると、多くの球団による争奪戦となるのは必至。その際も、井川の事例が頭によぎって再び慎重になれば、他球団に奪われ、田中の獲得も露と消える。田中を落札するには、井川ショックを払しょくするしかなさそうだ。
(落合一郎)