インディアンズとのオープン戦(3月31日)に登板した上原浩治(36)は1イニングを投げ、無失点と結果を出した。オープン戦前半は調子が上がらず、一時は『5回10失点』とマイナー落ちの危機も伝えられた。しかし、さすがはベテランである。本番直前になって本来の調子を取り戻してきた。この状態なら、開幕25人枠に何とか滑り込めるかもしれない。
「上原と建山(義紀)は『雑音に悩まされた1カ月間』だったと思います。彼らは自身に関する質問よりも、ダルビッシュのことを聞かれる時間の方がずっと長かったんですから(笑)」(現地特派員の1人)
上原にとって、2012年の課題は『一発病』の克服だろう。昨年前半、オリオールズでは『ナンバーワン・セットアッパー』だった。リリーバーの能力をはかるうえでもっとも重要視されるWHIP(1イニングあたりに許した走者の数/安打プラス四球)は、0.77。これはアメリカンリーグのトップ数値だった。ところが、同リーグ西地区のレンジャーズにトレードされた後は精彩を欠いた。ポストシーズンを含め、18回3分の1を投げ、9本のホームランを献上してしまった。本拠地球場『レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリトン』は高温乾燥地帯にある。その地域の「ボールがよく飛ぶ」特性の餌食にされてしまったわけだ。『一発』は制球が甘くなったとき、あるいはストレートの球威が足らなかった際に食らいやすい。
上原自身もこの点は反省材料に挙げていたようである。「連投等でストレートの威力が落ちているときは、どう対処するか」を考え、キャンプではカットボールを習得しようとしていた。カットボールは巨人時代にも投げたことがあるが、封印している。当時のチーム関係者によれば、「カットボールを投げると、次に投げるストレートや別変化球のキレに影響が出た」という。上原にはたまたま合わなかったのだろう。だが、一発病克服のため、新しい変化球を習得する必要性を感じ、今回の再チャレンジとなった。オープン戦前半は数字だけ見れば「不調」だが、そのカットボールの精度や、これまであまり投げていなかったスライダー、チェンジアップをテストしていたのだ。
そんな上原だが、他球団のGMは「レンジャーズが手放す可能性もある」と見ている。上原の投球を球種別に見ると、ストレートを投げる割合が高い。高めのストレートと、低めのフォークボールのコンビネーションが武器で、凡フライでアウトカウントを稼げる「フライアウト投手」とも称されている。つまり、レンジャーズ移籍後に被弾が多くなったのは、「オリオールズ時代は外野フライだった打球が、高温乾燥地区のテキサスではホームランになる」と解釈されており、言い換えれば、他チームに移籍すれば、再び「ナンバーワン・セットアッパー」として活躍できるとも評価されているのだ。
そういった他球団の評価はレンジャーズ側にも届いている。
「上原をトレード放出して資金を捻出し、フィリーズからFAした好投手のロイ・オズワルトを獲得するとの報道もありました(2月半ば)。ほかにも、ブルージェイズが上原獲得の交渉を持ち掛けた、アスレチックスとのトレード交渉のなかで上原の名前が出たとか…。彼の周辺が騒がしかったのも事実です」(米国メディア陣の1人)
まだ破談になっていない水面下でのトレード話もあるそうだ。ブルージェイズから持ち掛けられたトレードに関しては、上原自身が『トレード拒否権』を行使している。もっとも、昨年7月のトレードは行き先がレンジャーズだと聞いてそれを受け入れている。移籍先のチーム状況、生活環境等に納得すれば、今回もトレードを受諾する可能性は高い。
今季、レンジャーズで注目すべきはダルビッシュのピッチングだけではないようだ。
※メジャーリーグの選手、監督首脳陣等のカタカナ表記は、ベースボールマガジン社刊『週刊ベースボール』(2012年2月13・20日号)を参考にいたしました。