「6月28日に代打出場し、そのまま捕手として守備にも入りました。翌29日、捕手としてスタメン起用されましたが、途中からベンチに下がっています。30日は出番なし。試合のなかった7月1日をはさんで、7月2日の埼玉西武戦で起用され、バットで結果を出しました。チームが変わって、環境の変化に戸惑っている感もありますが」(スポーツ紙記者)
チーム合流後、マスクをかぶらせた。移籍してきたばかりの捕手を守備につけたのも、栗山監督の期待の表れだろう。
今季の日本ハムは、捕手の人材が不足していた。高卒5年目の清水優心、同6年目の石川亮もいるが、兼任コーチで38歳の鶴岡慎也まで試合に駆り出さなければならないほど。正捕手の座を掴みつつあった清水が故障で開幕に間に合わなかったためで、その人材難を宇佐見の獲得で補おうとしていた。
今さらだが、宇佐見は打撃力がウリ。巨人時代も「小林誠司を蹴落とすとしたら、打撃力の高い宇佐見」と目された時期もあったが、巨大戦力の中に呑み込まれてしまった。
「栗山監督は宇佐見を捕手として使って行こうと思っています。『打てる捕手』は、ストロングポイントになりますから。巨人・阿部が年齢的衰えを見せて以来、12球団で『打てる捕手』は西武の森友哉くらい」(ベテラン記者)
もっとも、「打てる捕手」と言っても、捕手としての守備能力が高くなければ、スタメンでは使って行けない。
日本ハム投手陣の特徴を掴むのはこれからだとしても、「捕手・宇佐見」について、こんな話も出ている。巨人に詳しい投手出身のプロ野球解説者によれば、宇佐見は小林誠司と対照的なタイプだったという。
「ひと言で言うと、マイナス思考。良い意味でね」それは、宇佐見が歩んできた野球人生によるものだ。公立高校、地方大学を経て、巨人入り。ドラフト1位入団の小林は、名門・広陵高校から同志社大学、社会人・日本生命と“エリートコース”を歩んできた。
「強肩堅守の小林が高橋由伸・前監督、原辰徳監督からキツイことばかり言われるのは、打撃難のせいばかりではありません。リードに『工夫』が足らない時があるからです」(前出・同)
エリートコースを歩んできた小林は、一流のピッチャーとバッテリーを組んできた。有名な話だが、広陵高校時代のパートナーは、現広島の野村祐輔だ。一流投手がパートナーなら、多少の配球ミスがあっても、大量失点になることはない。それに対し、宇佐見のパートナーは無名投手ばかりだったので、「どうやったら、抑えられるのか?」と、常に考えさせられてきた。慎重で、臆病なリードを組み立てていく捕手人生を送ってきたのだ。
宇佐見と小林。同じユニフォームを着て、スコアラーから上がっている同じデータ表を見ても、小林は「攻めの投球」となり、宇佐見は「慎重」になる。ただ、肩の強さ、捕球技術、試合展開の読みなどの捕手能力では、残念ながら、小林のほうが上だった。
どちらの配球が良いという話ではない。宇佐見の慎重なリードには、巨人投手陣も一目を置いていた。そして、宇佐見も、自分のスタイルを変えずに頑張ってきた。栗山監督は「得意の打撃」で宇佐見に自信を取り戻させ、その後で、彼らしい配球も披露できる環境を作ろうとしているのだろう。この先、宇佐見が活躍したら、世のサラリーマンにも訴えるものがきっとあるはずだ。
(スポーツライター・飯山満)