昨夏の甲子園ヒーロー・吉田輝星(18=北海道日本ハムファイターズ)が、プロ初登板初先発で勝利投手になった。5回を投げ、被安打4・四球2・失点1。注目の奪三振数は「4」だった。上出来なピッチングと言っていいだろう。
正直な話、初登板は負けると思っていた。吉田の投げた二軍戦(9試合)をいくつか見たが、「まだ、オトナの世界では…」というのが正直な感想だった。二軍のトータル成績は、0勝3敗、防御率4・15。同日が二軍を含め、本当の初勝利である。もっと言えば、プロ入り以来、一番良いピッチング内容だったと思う。吉田を素直に評価すべきだろう。
「広島打線も、試合序盤は『お手並み、拝見』といった感じでしたね。真ん中低めのストレートがストライクになったり、ボールになったり。手元で伸びてくる良いストレートだとの印象を持ったバッターもいれば、さほど速くないと思ったバッターもいました」(スポーツ紙記者)
広島打線のストレートに対する印象が異なるのも、当然だろう。吉田は走者を背負ってから、それも得点圏の二塁に進んでからギアを上げるタイプだ。そのスタイルは、昨夏の甲子園大会と同じだ。
甲子園時代と同じピッチングができたことで、吉田は「プロでやって行ける」との自信も深めたのではないだろうか。
吉田が先発投手としての責任イニングの5回を投げ切った後のことだが、翌日(6月13日)の予告先発のピッチャーが発表された。加藤貴之(27)だ。選手想いの栗山英樹監督(58)らしい采配である。
4年目の左腕・加藤は今季序盤戦、先発登板のチャンスをもらったが、生かしきれなかった。チーム関係者、プロ野球解説者などによれば、加藤の先発は「オープナー」だったという。オープナーとは、打者一巡を目処とした短いイニングしか投げない変則の先発起用。加藤は、プロ入りしてからの過去3年、シーズンを通して活躍したことがない。その加藤を生かすため、「短いイニングなら」とオープナーでの先発マウンドに送ったのだが、結果は出なかった。
「吉田と加藤は対照的です。12日先発の吉田は力を押す力投型、加藤は技巧派。右投げ、左投げの違いだけではありません」(前出・同)
交流戦は日程が変則になりがちだ。また、セ・リーグの本拠地球場に乗り込むため、通常のペナントレースとは異なる移動・宿泊となるため、先発投手の調整が難しいとされている。この時期に吉田を一軍に呼んだのは、厳しい状況を逆手に取り、チャンスを与えたのだ。加藤の先発も同様である。吉田のストレートを見せられた翌日なら、広島打線も技巧派左腕の変化球は厄介に見えるのではないだろうか。
「各担当コーチが監督に選手の状態を報告するのは、どの球団でも当たり前のこと。栗山監督は必ず質問をし、そのまま起用法などの打ち合わせになることも多いそうです。気になる選手のことは、二軍戦でも映像を取り寄せてでも自分の目で確かめようとします」(プロ野球解説者)
チーム関係者によれば、吉田のボールを受けるスタメン捕手の石川亮に対し、ストレート中心の配球を指示していたそうだ。
吉田の最大の武器は、ストレート。二軍では「変化球でも確実にストライクが取れるように」と教えられていたが、まず、長所を発揮させることに徹したようだ。ストレートを投げ込んでいるうちに、吉田の闘争心にも自ずと火が点いたような印象も受けた。吉田を生かす最大限の方法、そして、翌日に投げる先発投手のことも考える。日本ハムから若手が次々と出てくる理由は、この辺にあるようだ。(スポーツライター・飯山満)