横浜在住で26歳のHさんが私のお客様になってから半年が過ぎたころでした。1人でお店にくる事も慣れ、店の人間とも親しくなり、すっかり常連客になっていたHさん。
ある日「まちこに言わなきゃいけないことがある」からと、急な同伴のお誘いを頂きました。何かしら? さては彼女になってくれ、とか? この手のパターンは既に慣れていましたから、丁重にお断りする伝え方を考えながらレストランへ。そして飲み物を頼むや否や「ごめん、まちこ、俺浮気したんだ。本当にごめん。許してくれ」とHさん。私はこの時、自分の正面に座っている男が発した言葉の意味をさっぱり理解せずにいました。思わず「ねえ、何言ってるの? なんで私に謝るの?」と私。Hさんは、まるで悪さをして母親に叱られた少年のような表情でした。なんでも、先日上司の誘いで別のキャバクラに連れて行かれ、酔っぱらった拍子にその店の女の子と連絡先を交換したのだとか。それくらいなら当たり前のこと、と私は思いましたが、どうやら「Hさんにとって」はそうでもない様子。「だって、俺にはまちこがいて、まちこには俺がいるのに、毎日別の女から連絡がくるんだよ。まちこは嫌じゃないの? これは浮気にはならないのかな?」…そうです。
そうなのです。Hさんは既に、私を「彼女」だと思い込んでいたのです。
私は枕営業なんてしたことがなかったですし、お店の外で会うとしたら同伴だけ。それなのになぜ? 後日彼の上司と話す機会があって小耳に挟んだのですが、彼は今までに一度も恋愛経験がなく、熱心な「アニメオタク」な人で、二次元の世界の女の子以外に関心がなかったそうなのです。そしてなんと、彼の初恋の「人間」が私だと言うのです。衝撃的な事実を知り、一瞬の驚きと、申し訳なさが入り交じった微妙な感情を私は抱きました。その後私はうまく彼の「妄想彼女」を約1年演じ続けましたが、Hさんの九州への転勤が決まり、私の“女優業”は幕を閉じたというわけです。
世の中って、本当に面白いオトコが沢山いますよねぇ…。
文:秋田まちこ
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