夫の運転で、私はある川沿いを車で走行していた。時間は深夜。十一時ぐらい。
右手にはゲームセンターやラーメン屋が並んで、明るい光が左手の川の堤防を照らしている。
堤防といっても、土で丘になっているようなもの。
初夏で草はボーボー。だがそれは刈り取られて、見晴らしが良くなっていた。
私は助手席で流れる堤防を見ていた。
反対の道のにぎやかさに比べ、なんてさびしい風景だろう。
それも照らされた光で、より物悲しい。
その時。
車と並行して何か並走している。
それは茶色。私との距離は五メートルぐらい。
二本の木切れだった。細くまっすぐの木切れ。
二本の木切れが交互にものすごいスピードで動いて、車と並走している。
私はふと気になった。
「ねぇ。今車の速度何キロ?」
「50と60の間ぐらいで走ってるよ。どうしたの?」
夫はまだ木切れには気が付いていない。
「ものすごい速さで車と並走してるモノがいるの」
「おばあさん?」
夫は、都市伝説のターボ婆を連想したようだ。
だが、私の目に映る姿は棒だけで、人間の上半身や下半身らしきものは見えない。
とてもおばあさんには見えない。人間にも見えない。
「違う。枯れ木みたいなの」
「へー」
その二本の木切れはすさまじいスピードで、足(?)を交互に動かして車と並走を続けている。
夜目の利かない私にも、それが黒っぽいところと薄い茶色の箇所があるのが判別できた。
突然枯れ木がスピードを上げた。見る見る間に車を追い抜く。
と、それは車を追い抜き、直角に道のほうへ下りてきた。
ヘッドライトに照らされた枯れ木はやはり、ただの木の棒だった。
「あぶないッ」
夫が急ブレーキを踏む。
ヘッドライトに照らされた枯れ木は、急ブレーキに驚いた私たちの前から姿を消した。
あれは何でどこに向かったのか。永遠の謎である。
(立花花月 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou