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本好きオヤジの幸せ本棚(32)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『罪悪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一=訳/東京創元社 1890円)

 今年も秋が深まり、もうすぐクリスマス、大晦日を迎えるのだな、という気分になってきた。一年はすぐに過ぎてしまうのだ。とはいえ、今年を振り返らないで、年末、来年のことばかりに思いをはせるのは愚かであろう。未来をいつも考えているのは一見、前向きで格好いいように感じられるが、過去の積み重ねで人生があるのだから、今年、昨年はどういうことがあっただろうか、と回想するのも意味があるのではなかろうか。
 今年2012年も優れた小説がたくさん出版されたが、フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』も、その優れたものの一つに加えていいだろう。昨年2011年に短篇集『犯罪』が邦訳出版され、多くの日本人読者が支持をした。ドイツ人であり、弁護士として働いてきたシーラッハであるが、その体験を生かしてさまざまな犯罪者の肖像を描いた短篇集である。つまり、犯罪者と現実に面と向かって関わってきた人が生み出した、きわめてリアルな小説集だ。今年2月に出た本書『罪悪』は『犯罪』の続篇のような印象も受けるが、特に精度が落ちているわけではなく、やはり多様な犯罪者の悲劇を克明に描いている。ごく普通に生きていたはずの人が犯罪へ走っていく過程は、読んでいて切ない。しかし、その切なさがいいのだ。今年出版された傑作をこれから読もうと探している方々に、ぜひ読んでいただきたい。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『小沢でなければ日本は滅ぶ』(平野貞夫/イーストプレス・1575円)

 政治が動くとき、そこにはいつも小沢がいる−−。
 “近いうち解散”が実現し、年内に総選挙が行われる。「小沢一郎の知恵袋」と呼ばれた著者が、政治家として、また人間としての小沢一郎の「実像」と、今後の政界戦略を明らかにする。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 「食」をテーマとした雑誌『dancyu』(プレジデント社/860円)が、永久保存版として興味深い特集を組んでいる。題して「日本一のレシピ」。
 同誌がこれまで掲載してきた料理の中から、読者・編集部・グルメライターそれぞれが圧倒的に支持した「dancyu史上最強クッキング第1位」を取り上げている。しかも選出されたのは、さほど手のこんだ料理ではなく、男でも手軽に作ることができそうなものばかり。
 読者選出部門では、妹尾河童氏が考案した白菜鍋が紹介されているが、いかにもこれからの季節に最適といった料理で、実においしそうだ。
 また、編集部部門第1位は、料理研究家・川淵幸子さんによるねぎ豚。豚バラ肉とねぎを、醤油と紹興酒で煮込むだけ。
 男の手料理がブームとなって久しい。雑誌不況が叫ばれる中、注目を集める数少ない題材だ。手軽かつ身近なテーマとして、今後も続けてほしい特集である。(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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