1週前にして、カワカミプリンセス陣営から早くも堂々の勝利宣言が飛び出した。「うん、このまま無事にいけば、負けないと思う」
手のひらに残るしびれるような感触を楽しみながら、横山典騎手は静かにうなずいた。東の名手がそこまで自信を深めたのは、5日に行われた1週前追い切りだった。前走の府中牝馬Sに続き2度も栗東に駆けつけたのも異例だが、さらに驚かされたのがその中身だ。
DWコース。テンからグイグイ飛ばしながら、道中、さらにアクセルを踏み込んでいくと、男勝りの馬体は風に近づいた。6F76秒3、ラスト1F13秒4はぶっちぎりの一番時計。その日の荒れた馬場コンディションを考慮すれば、まさに破格のタイムといっていい。
「1週前ビッシリやるのは予定通り。元気いっぱいだし、前走とは違う素軽さが出てきた。機嫌も随分良くなってるよ」
鞍上は独特の言い回しで前走からの上積みを強調した。その前走・府中牝馬Sは5月の金鯱賞以来、5か月近いブランクがあった。2着に敗れはしたが、筋肉痛明けでベストとはいえない状態だっただけに、底力は十分示した。
そして横山典にとっての何よりの収穫はイメージの大きな変化だったという。「レース前は乗り難しいイメージがあったが、問題なかった。パドックでは少しうるさかったけど、2番手で折り合いがついたし、最後までリズム良く走っていた」
さすが名牝はセンスが違う。そこにこの上積みがあれば…横山典の勝利宣言はハッタリでも何でもない。
天皇賞・秋のウオッカ、ダイワスカーレットのワンツーを持ち出すまでもなく、今の競馬は牝馬が強い。1歳上の2冠牝馬カワカミも負けてはいられない。西浦調教師は「カイバをしっかり食べて体に張りが出てきた」と言葉に力を込めた。一昨年のエリザベス女王杯で1着から12着に降着して以来、勝ち星から遠ざかっている。再び女王道を歩むには、同じ舞台で苦い記憶を払しょくするしかない。