<もうすぐ学校が始まっちゃって、バイトもいくつかしているし、休みがあまりないんだよね。その合間を見つけて、ってなっちゃうけど、それでも良ければ遊ぼうね>
そういえば、W嬢とはデートをしよう、という話をしたんだった。A嬢が気になっていたせいもあって、いつもならあまりしないデートの誘いをしてしまったのだ。記憶のある限り思い出してみると、過去の恋愛話をしていた流れだったのだろう。W嬢は半年前に彼氏と別れて以来、男友達と2人で遊んだことはあるものの、デートらしいデートはしていないらしい。客から誘われても、店外デートも断っている、という。
「もちろん、お客さんとアフターは行きますよ。でも、二人では行きません。他の友達を誘ったりしている」
私は、それはかえって客はうれしいのではないか?と思いつつ、ガードをしている感じを受けた。その訳を聞いてみると、
「だって、店の外で会う、ってどういうことなんでしょうか。何を要求してるんですかね。きっと、ひとつのことでしょ?」
たしかに、店外デートで客の要求することのひとつに「エッチ」もあるでしょう。しかし、そんなことをいきなり求める客もそれほど多くはないだろう。「エッチ」を求めるとしても、時間をかけて、ある程度、恋愛という物語にはまり込んでいるときに、求めたりするんじゃないだろうか。
もちろん、最初のアフターで「エッチ」をしてしまう関係だってなくはない。複数の友人から、そんな関係になったという話を聞いたことがある。そんな時は、嬢が客を気に入っていることが多かったりする。そのあと、付き合ったという話だってなくはない。
W嬢はその場での答えがなかなか出せないでいた。そのため、私が助け舟を出すことに。
「もし、嫌だったら、最初から断ったほうがいいよ。でも、『断ります』とストレートには言いにくいよね。だから、『機会があったら』とか、『時間があったら連絡します』くらいに言えば、お客は『あ、うまく断ったな』と思うんじゃないか?」
W嬢は「あ、そうか。それでいいのか」とつぶやきつつも、私への答えをすぐには出そうとしない。いったい、何を悩んでいるのか。それとも悩んだふりをして、「あなたに興味がありますが、どうすればいいかわからない」といった営業なのか。こっちがW嬢のふるまいをみて、どう判断していいのか困ってしまう。でも、それでは、会話がまったく進まないので、もう一度、助け舟。
「テクニックとして、一つ、いい方法があるよ。たとえば、デートするじゃないですか。でも、その日は仕事が休みじゃない。でも、休み、ってしておくの。そして、仕事の時間が近づいたら、『お店から連絡があって、どうしても今日は店に出ないといけない』みたいなことを言うの。『同伴できれば、もっといることができるけど、同伴じゃないと、もう行かなきゃ』とかも付け加えるといい」
「あ、そういうのもあるね」とW嬢は目を丸くしている。なぜ、そんなことを客側から言わないといけないのか。私は、「キャバ嬢育て」が好きなので、そんなテクニックを身につけて、それほどお気に入りではない客でも同伴できるようになってほしいと思っているのだ。
そんな会話をしていたから、先のメールが届いたのだ。さて、そのメールの真意はどこにあるのだろうか。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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