search
とじる
トップ > スポーツ > 甲子園のあの日 逆転満塁HR

甲子園のあの日 逆転満塁HR

 2007年、第89回全国高校野球選手権大会−−。
 佐賀北高校の帝京戦、決勝戦をスタンドで観戦していた。東海チャンピオンの宇治山田商業戦との延長15回4-4の引き分け、それから再試合の2戦の守備を観て、唐突に(あ、ここ優勝するぞ…)と思ったのだ。かなりな野球少年だったが、甲子園の試合をまともにテレビで観たのも、10年ぶりくらいだった。それなのに、なぜか吸い寄せられるように甲子園に行った。スポーツライターではないし、仕事のアテもない。(笑)でも突然の野球熱に浮かされたかのように、行かずにはいられなかった。それぐらい、一流校のそれとはまた違った、“強さ”を感じる佐賀の守備だったからだ。

 帝京戦の試合開始前、シートノックの間、佐賀の控え選手は、炎天下中腰で並んで声を出していた。帝京はそういう理屈に合わないことはしなかった。
 選手たちの肩が強いのは、明らかに帝京にほうだったが…(やっぱり、佐賀まだなにかあるかもな…)そう個人的には思った。どっちがいい悪い、ということではない。2つの対照的なチームカラーのぶつかり合いが楽しみに思えた。

 佐賀北側のベンチの後ろに陣取った。ストライクとボールの判定もわからない位置だったが、帝京の長田のスクイズを久保がグラブトスした場面は、セーフに見えた。
 が、本当にいい試合だった。そして本当に勝ってしまった。

 決勝戦。
 帝京戦にも増して、佐賀一色なのが、始まる前からわかった。練習時から佐賀の選手のプレーにスタンドから声援が飛ぶのである。そしてメンバー紹介に大歓声。ちょっと相手がかわいそうだなあ…という雰囲気だった。対戦相手の広陵だって、'67以来の全国制覇がかかっていたのだから。

 上戸彩を大人っぽくしたようなお姉さんが『ビールいかがすかー!』とハスキーな声で呼び込んでいて何度も彼女からビールを買おうと思ったが、なんだか神聖な場所に思えて…結局2日ともかちわり氷で我慢。はっきり言って、これはただの水だ…。
 でもこれぐらいなければ倒れてしまいそうな暑さだった。

 佐賀が4点を追う展開で、運命の8回裏。四球押し出しで一点返して、一死満塁。
 バッターは、大会でもHRを打っていてちょっとほかの選手より雰囲気がある感じの、3番の副島だ。この日は、相手投手の前にいいところがなかったが、願ってもいないバッター。やはりこの打席も落ち着いて闘っていた。途中で「打て! 頑張れ!」すごい声の声援が沸き起こった。と、「いやーん! もう頑張ってえ!」普段はクールなはずのいまどきの甲子園ギャルたちが、その声援を継いだ。スタンドのボルテージは最高潮に達していた。

 スライダーの曲がり端を叩いて打球が上がった、その瞬間…一瞬球場が静まった。(うそだろ…この場面だぞ?)そう思った。広陵の選手が、いかにも野球がうまい子がやるようにかっこよくボールを見送った。それしか出来なかった。

 レフトスタンドの中段に突き刺さる逆転満塁HRだった。

 直後、静寂は、およそもう聞くことはないと思われるような地響きのような大歓声に変わった…。

 佐賀の選手たちは、優勝したあとも、それまでの戦いぶり同様にほとんど表情を崩す選手はいなかった。スタンドからの大声援にも、それまでは知り合いに向けてやっていたようなごく自然な会釈を、礼儀正しく返すだけだった。まぶしすぎて、涙が出そうになった。(笑)
 付近のガングロギャルが、「副島やばい…」そう言って放心状態になっていた。

 この準決勝、決勝戦のチケット半券は、今でも大事に取ってある。
 あきらめてはいけない、そう観ている者すべてに教えてくれたような気がしたからだ。帝京も、広陵も同様に、ほんとに高校生らしい素晴らしい闘いぶりだった。

 今年も、出場校はすべて出揃って、後は本大会を待つばかり。
 大会の主役である選手たちの健闘を祈りたい。

関連記事


スポーツ→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

スポーツ→

もっと見る→

注目タグ