それは、燃える帆船が航行している、というものだ。
1964年4月10日のこと、夜間にモーターボートで付近を航行中だった人物が、海上に立ち上る火柱のような物を発見。それは速度を落とすことなく彼らの元へ近づいてくる。やがてそれは三本マストの帆船であり、帆柱を中心に燃えさかる火が全体を包んでいることが判明した。通常であれば到底航行できないはずの火災にもかかわらず、帆船は海上を進み、港に着く直前で忽然と消えてしまったという。
この「燃える幽霊帆船」の伝説は19世紀から存在しており、1880年にはノバスコシア州ピクトゥーの町で目撃された記録が残っている。この時は港や町の住人らを含めた多くの人々が帆船を目撃しており、港の方も消火および救援対策をとっていたが、船は入港する前に忽然と消えてしまったのだという。
このように、カナダの「燃える幽霊帆船」は多くの人に同時に目撃されているという特徴がある。
1965年11月にはピクトゥーの町の、海に近い所に建つ家の夫人が夜の海に浮かぶ「燃える船」を発見。船舶火災だと考え、近所の人々に呼びかけて皆で駆けつけたが、船には誰も乗っておらず、焼け落ちる様子もなかったという。そのまま船は海上で消えてしまったため、伝説の「燃える幽霊帆船」だと騒動になった。その二日後の夜、再び燃える船の姿が海上に出現。この時は前回からそれほど日が経っていなかったこともあって、近隣の町からも見物人が殺到。100人以上の人々が目撃することとなった。そして「燃える幽霊帆船」は再び港に着く前に忽然と姿を消してしまったのである。
この幽霊船に関しては多くの人々が研究し、正体について推測している。地元の郷土史研究家の調査によれば、この幽霊帆船はノーサンバーランド海峡を中心とする100マイル前後の区域にのみ出現するという事が判明している。そのため、この区域で磁気異常などが起きているのではないかとする説が存在している。対岸の明かりや日本で言う不知火のような自然現象を目撃したものではないか、とする説もあるが、帆船の姿がしっかりと確認されているため、一概に見間違いであるとも断定できないようだ。
なお、この「燃える幽霊帆船」の伝説は現地では非常に親しまれているものであり、現在では記念切手も販売されている。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所