連覇の偉業を成し遂げたダイワメジャーの二枚腰の前に“クビ差”届かず涙をのんだ昨年のマイルCS。日々、この頂点を思い続けてきたスーパーホーネットでこん身の大勝負だ。
「昨年と比べて、とくに何かが急に変わったところはないんだけどな」大一番を前にして、JRA最速100勝の記録を塗りかえた敏腕・矢作調教師の第一声は、拍子抜けするセリフで始まったが、振り返れば2008年は山あり谷ありの一年だった。
休み明けでGI・スプリント戦の“速さ”を体感させた高松宮記念に始まり、続く京王杯SCでは、馬運車に乗った途端、一切カイバを食べなくなる弱点を逆に利用。遠征による馬体減の数字をあらかじめ算出することで見事に勝利に導いた。
もちろん、成功ばかりではない。「あれはオレの失敗」と潔く敗因を分析する安田記念は、環境の変化に異常に弱い同馬を美浦に滞在させる荒治療が裏目に…。結果は1番人気に支持されながらも8着に終わっている。
「ホント、この馬は試行錯誤の連続」。そうボヤく指揮官だが、完ぺきなパフォーマンスでウオッカに後塵を浴びせた毎日王冠はアッパレのひと言。大手生産者のバックボーンを持たない反骨の若きトレーナーのあくなき探究心、おう盛なるチャレンジャー精神が結実した格好だった。
むろん、前走後は精鋭スタッフが議論に議論を重ねて組まれた調教メニューを寸分の狂いなくこなしてきた。DWコースで行われた最終追い切りも、ゴール板に突き刺さるような鋭さ。目イチの勝負態勢が整った今、ライバルのことなどはもはや眼中にあるまい。
「ひと言では言い表せないこれまでの紆余曲折が、馬にも私にもひとつひとつのいい経験になっている。だから、レースもゆったりとした気持ちで迎えられる。昨年は悔しいクビ差だったが、あれが勝った馬との力の差。でも、今年はウチの馬がそういう競馬で力の差を見せつける立場。他馬のことなんて一切、考えることはない。この馬を信じて乗れば結果は自ずとついてくるよ」
機が熟し、完ぺきに仕上がったスーパーホーネットが、秋のマイル王の座に輝く。