「日本はヘンな固定観念に縛られすぎています。そのせいでまったく野球が伸びていないと思います、この何十年」
この発言が出たのは、インタビューの規定時間の45分が「あと少し」で終わろうとしているときだった。ダルビッシュは、『初出場』ということで「他球団選手とどんな話をしたいのか?」とも質問され、まずは「トレーニングのメニューとかも聞きたい」と回答。すると、日本人選手との体格や筋力の違いにも話が及び、“日本球界の練習方法”を否定したのである。
米国人ライターがそのときの様子を詳しく説明してくれた。
「ダルビッシュは今日まで筋トレ、食事、サプリメントで体重を増やしてきたと話してくれました。ウエイト・トレーニングのことを指していたんだと思われますが、日本球界時代、彼の周りには体重が増えたり、筋肉が厚くなりすぎることに否定的な見解を示す声が多かったという主旨でした。『筋トレはダメだと固定観念を持つよりは、筋トレをやって失敗した方が得るものもある』というニュアンスでした。ちょっと興奮気味な口調だったのでビックリしました」
ここまで熱くなる必要もないと思うが…。
米国と日本野球を語るうえで、パワー(筋肉)の違いが話題になる。しかし、メジャーリーガーとのパワーの違いを痛感しているのは、ダルビッシュ自身のようである。
前半戦、ダルビッシュは9本の被弾を浴びている。102回3分の2、総対戦打者447人(前半戦終了時点)だから、被弾率の高いピッチャーではないが、5月6日(現地時間)、2本目の被弾を浴びせたインディアンズのキプニスはこう話していた。
「ダルビッシュには、簡単には打てない変化球がたくさんある。−省略− 変化球は最初から捨てて、ストライクゾーンに来た速球を強く叩くことだけに集中した。そうしたら、ホームランに…」(同日試合後の談話)
また、メジャー2戦目の先発登板となった4月14日(同)、対戦チーム・ツインズのバレンシアは、6回途中でダルビッシュを降板させた“勝因”を次のように明かしている。
「変化球はどれもハイレベルだ。甘い速球を辛抱強く待つに限るよ」(試合後)
同じく、スパン外野手も「真ん中高めの失投を待った」と話していた。
対戦打者のコメントから察するに、ストレートを狙い打ちされているようである。どんな一流投手にも失投はあるが、それを確実に長打にされているという印象をダルビッシュは抱いているのではないだろうか。
また、ダルビッシュは『与四球』が多い。前半戦16試合で「90」の四球を記録している。昨年はシーズンを通じて「36」。日本ハム時代でもっとも「与四球」が多かったのは、06年の「64」だから、シーズンの半分で自己ワーストを更新したことになる。これも、失投を長打にされるパワーの違いを痛感している証だろう。メジャーでは失投が長打に結びつくため、慎重になりすぎていると見るべきである。
同様に、メジャーでは捕手別の防御率が弾き出される。球宴にも選出された正捕手・ナポリと組んだときのダルビッシュの防御率は、4.57。2番手のトレアルバと組んだ際は、2.29。日本国内でも販売されているメジャーリーグ専門誌によれば、「ナポリはストレート(直球系)を中心に配球を組み立てるタイプ」と紹介されていた。『捕手別防御率』の数値を見る限り、トレアルバを「パーソナル・パートナー」にすれば、もっと勝ち星が稼げそうだが…。
「レンジャーズは『パーソナル・キャッチャー』を作らない方針のチームです。それに、ナポリはチームの中心打者であり、打線、得点力にも影響が出かねないので」(前出・米国人ライター)
甘いボールが行けば、長打を浴びる危険性はメジャー移籍時に覚悟していたはず。ダルビッシュは直球系のボールをパワーアップさせなければ、さらに被弾の数を重ねるだろう。
※メジャーリーグに関わるアナリスト、統計会社はフォーシーム、ツーシーム、カッター(もしくはカットボール)を『直球系』と位置づけており、今回の「ダルビッシュの被弾」に関する本サイドの取材はその定義に基づいてまとめました。