『ゴルゴ13』は、一流のスナイパー・ゴルゴ13(デューク東郷)による超人的な暗殺ミッションを描く劇画である。1968年から連載を続けている長寿劇画で、ゴルゴ13はスナイパーの代名詞になっているほど有名な存在である。
この巻ではサブタイトルになった「亜細亜の遺産」に加え、「亜細亜の遺産 その後」「カメレオン部隊」の3編を収録する。『ゴルゴ13』は基本的にオムニバス形式であるが、「亜細亜の遺産」と「亜細亜の遺産 その後」は連続した話で、父と兄を殺された女性の復讐がテーマである。
ゴルゴ13は正体不明の人物である。正体不明の人物に対しては、その正体を探りたくなるものである。『ゴルゴ13』にも、主人公のルーツに迫る話が数多く存在する。そこでは日本軍の工作員やユダヤ人、ロシアのロマノフ王朝の末裔、ジンギスカンの末裔など、様々な人物がゴルゴ13の両親として推測されている。しかし、ルーツ探究モノの推測は最後に否定されるか、真偽不明のまま終わるかのいずれかで、ゴルゴ13の素性は依然として不明のままである。
「亜細亜の遺産」もゴルゴ13のルーツが背景となっているが、異色である。ルーツ探究モノはジャーナリストなどの執念の追及によって、謎が少しずつ明らかになるパターンが定番であるが、「亜細亜の遺産」では比較的あっさりとゴルゴ13の両親が明かされる。しかも、DNA鑑定という信頼性の高い証拠まで登場する。
「亜細亜の遺産」では、ゴルゴ13が日本の古武術を身に着けた暗殺者に狙われる。暗殺者は周到に計画して攻撃するが、ゴルゴ13は冷静に反応する。相手の行動からその意図を見抜き、自分の動きに対する相手の反応から推測の正しさを裏付ける。優れた直観力を持つだけでなく、直感の正しさを確認する冷静さも持ち合わせている。ゴルゴ13が一流のプロフェッショナルとされる所以である。
(林田力)