和田が17勝、杉内が16勝。ソフトバンクは左投手で50勝を稼いだ計算になる。
まず、最多勝の和田だが、これが初の投手タイトル獲得だった。ちょっと意外である。左肘の炎症で離脱した年もあったが、最多勝、奪三振、勝率、防御率など、ほとんどのシーズンで10傑入りしてきた。そんな安定した成績を収めてきた和田の長所を再認識させるデータがある。「試合時間」の短さだ。和田が昨季26試合に先発登板したが、うち13試合は3時間以内にゲームセットしている。投球テンポの良さだろう。和田は6月5日の対広島戦5イニング以降の15試合101回3分の1で、連続無失策だ。この記録は今季も継続となる。投球テンポの良さが守備陣にも好影響をもたらしているのだろう。
しかし、救援陣を見てみると、50試合以上に投げたリリーバーは摂津、ファルケンボーグ(32)、馬原孝浩(29)、甲藤啓介(27)の4人。他も3投手が30試合以上に登板している。和田、杉内を擁する先発陣にしても、完投試合「6」。この数値はリーグワーストである。「馬原に繋ぐ」勝ちパターンができているのは強みだが、救援陣の負担軽減も今季の課題だ。
こうした投手力が松中信彦(37)、田上秀則(30)、松田宣浩(27)、小久保裕紀(39)らの故障・不振による離脱を補い、ペナント終盤戦でのラストチャージにも繋がった。主力選手のフルイニング出場に確信が持てなかったとすれば、働き盛りの多村仁志(33)を慰留させ、内川聖一(28)をFA獲得したのにも合点が着く。まして、多村はチーム三冠(打率、打点、本塁打)である。
主力野手陣は世代交代の時期でもあり、かといって、小久保、松中の力はまだまだ必要とされている。贅沢な悩みかもしれないが、ソフトバンクは“似たタイプのバッター”が多い。スタメン野手のほとんどが長距離砲だ。その点では、犠打「50」をマークした本多雄一(26)の役割は今年も大きい。
ペナントレースを征しながらも日本シリーズに進出できなかったのは、04、05年に続いて3度目。クライマックスシリーズ・ファイナルステージでは先に3勝を挙げながらも(アドバンテージ「1勝」込み)、逆に3連敗してしまった。この屈辱感が内川、細川亨(30)の補強にも繋がったのだろう。
今オフの川崎宗則のメジャー挑戦が既成路線だとしたら、その後釜として誰が頭角を現すかも注目である。秋山幸二監督(48)も「川崎のいない内野布陣」を実戦テストしておきたいはずだ。
二軍(主に若手)には、俊足強肩で身体能力の高い選手も多い。昨秋のドラフトでは即戦力投手の競合抽選に失敗した時点で、『将来性』に切り換えている。2位・柳田悠岐(22=広島経済大)の一軍昇格はあるかもしれないが、外野手のレギュラー陣に割って入るのはまだシンドイだろう。小久保や松中のベテランをベンチに下げるような中堅、若手の出現が待たれるが、今のところ、そういった情報はない。だが、身体能力の高い若手が多いだけに、彗星のように新スターが誕生する可能性もある。
優勝を狙うには十分すぎる布陣だと思われる。仮にペナントレースでピンチになれば、昨季のように王貞治・球団会長自らが補強に乗り出すのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)