池袋のR大学に入学したのが1966年なので、「青春の門」を地で行く北口の青線地帯も、いまパルコになった東口の丸物デパートも、男子学生でも独りでは通りにくい南地区の大ガード下の剣呑(けんのん)さも見知っている。簡便な東西通路として、いまでも使われている北側のトンネルでは、日本刀で片腕を斬り落とされる事件もあった。
西口といえば西口公園。なにがあるわけでもないが、池袋らしかった。駅に降り立った学生が最初に覚える、東が西武デパートで、西が東武デパートという、初手から調子が狂う倒錯感覚が漂っていた。いまでは失礼な言い草になってしまうけれど、池袋を始発とする東武東上線は、女子学生の「住みたい沿線アンケート」では常に最下位で、1位は東横線だったと記憶している。ただし東横線は痴漢が跋扈(ばっこ)するとかで(アンケートが漏れていたのだろうか)女友達から結局、どこに住めばいいのかと相談を受けたこともある。
ふるさとへ廻る六部(巡礼)の気の弱り
数年前ふと気弱になって、昔のたまり場だった、公園裏のおにぎり屋「摩里湖」を訪れた。懐旧の情やみがたく30年ぶりに現れた男が、並みいる常連を差し置いて、抽選会の1等賞が当たってしまい、女将もわたしも気まずくなったことを覚えている。あの夜は間抜けでしたと、いま謝ろうにも店はない。わたしにわずか遅れてR大学のキャンパスで時を過ごした、伊丹由宇氏(ライター)が入り浸っていたのが「大門」。「大袈裟(おおげさ)ではなくこれ(大門のもつ煮込み)を500杯以上は食べた計算になる」そうだ。
「食べ続けて1000杯を目指したい」その味の決め手は「豆腐が入ったスープ鍋であって、白味噌のスープがなにしろ旨い。使うモツはシロだが、この店では鉄砲(直腸)を使う所に特徴がある」(「東京居酒屋はしご酒」光文社新書)。
R大学のキャンパスにはどこへ行くのにも必ず通る、通称四丁目と呼ばれる十字路がある。人探しするにはここで見張っていれば必ず会えた。気弱になった巡礼が、人恋しくなって、俳号四丁目を名乗った次第でございます。
予算1700円
東京都豊島区西池袋1-13-7