報道内容を総合すると、今回の訴訟を機に貴ノ岩、元日馬富士両名の母国であるモンゴル国内ではバッシングが過熱。また、その矛先は当人だけではなく家族にまで向けられ、精神的に耐えられない状況が引き起こされていたという。
このような理由から、貴ノ岩は訴訟を取り下げ、治療費等を全額自己負担とすることを表明。これにより、昨年から尾を引き続けてきた一連の騒動は幕引きとなることが濃厚となった。
これ以上状況が悪化すると、自身及び家族に身の危険が及ぶ可能性も否定できない。そのため、今回の貴ノ岩の決断は、どうにも致し方なかったという見方もできるだろう。ただ、筆者個人としては、少し口惜しく思うところもある。
一連の騒動に関しては、“被害者”である貴ノ岩側、“加害者”である元日馬富士側からそれぞれコメントや見解が出されている。ただ、当然ながらその主張には食い違いがあるため、その真相がどこにあるのか判別するのは非常に困難だった。
それだけに、今回の訴訟が提起された際、筆者は少しばかりの期待を抱いた。証人尋問などといった調査のメスが入ることにより、騒動の真相が明るみになるのではと思ったからだ。あれだけ世間に大きく報じられた一連の騒動、筆者ならずとも「真相を知りたい」と考えていた人も多かったはずだ。
ただ、今回訴訟が取り下げられたことにより、騒動の真相究明は極めて困難となった。先に述べたモンゴル国内の状況を考えても、今後再び貴ノ岩側が動きを見せることもないのだろう。
結局、その真相がどこにあるのか、外野の人間には分からないまま。ただ一つだけ確かな事といえば、角界が9回の優勝を記録した小兵横綱と、賜杯を22度手にした名横綱をいっぺんに失ってしまったということだけだ。
文 / 柴田雅人