ディープインパクトの弟ニュービギニングの化けの皮をはがし、ダーレージャパンからの刺客フリオーソの野望をも粉砕。父ジャングルポケットも通った共同通信杯を4戦土つかずで通過したフサイチホウオー。栗東トレセン関係者から「今年はずぬけた馬はおらず混戦」という声が数多く聞かれた2007年のクラシックも、いよいよ主役馬が確定したか!? いやいや、超新星は突如として現れ、一瞬にして勢力図を塗り替えてしまうもの。その答えを出すのは、このオーシャンエイプスのパフォーマンスを目の当たりにしてからでも決して遅くはあるまい。
「次元が違う走り。当週の坂路の追い切り時計が800m50秒6と速かったから、ある程度の自信はあったが、ここまで強いとは。あれならクラシックにいける」こわもてで度胸満点の石坂調教師でさえ驚がくしたという“衝撃”のデビュー戦は、今回の戦いと同じ舞台となる1月20日の京都外回り芝1800mの新馬戦。「単に入厩が遅かっただけだけど、初戦は若干太かった」の解説通り、好馬体ながらもパドックの周回では抜けたオーラを解き放っていたわけではなかったが、レースにいってのインパクトは強烈だった。
ゲートの出こそ悪かったものの、終始、中団の外めをピタリと折り合って余裕しゃくしゃく。坂の下りでついた惰性で自然と先頭に並びかけるやいなや、「スタンドに物見した」余裕をかましながら、まるであのディープインパクトのデビュー戦をほうふつさせる異次元の加速力を披露して見せたのだ。11秒6→11秒4→11秒7…新馬戦にしては、ただでさえ速いこのラスト3F34秒7のレースラップを馬なりで凌駕(りょうが)する上がり3F34秒3をマーク。武豊をして「大物だね。軽く飛びそうな末脚だった」と絶賛させた。
もっとも、わずかキャリア1戦。「こんなに注目されていいの!?3戦目は誰も取材にこなかったりしてね」。担当の日迫助手が笑顔でジョークを飛ばした言葉は、まんざら冗談だと受け流せない面もあるが、当面の相手と目されるナムラマース、アサクサキングスは不利があったとはいえ、ラジオNIKKEI杯2歳Sで1戦1勝のヴィクトリー(2着)を捕らえ切れなかった現実もまたある。ましてや、7日の坂路の追い切りでディープはもとより、数々の名馬の背中を知る武豊が「めちゃくちゃ速かったね。坂路じゃなく、平坦を走っているみたいだった。あの勝ちっぷりなら誰が見ても一気に注目を集めて不思議ではないし、僕自身もワクワクしている。
今回終わって、『この馬でクラシックに行きます』と言いたいね」と臨界点の賛辞を送れば、キャリアの浅さうんぬんは杞憂(きゆう)に終わる可能性は高い。「ディープが去って一番心の中にポッカリ穴があいているのは僕だと思う」と話す天才の前にすい星のごとく現れた“海猿”オーシャンエイプス。その前に広がれしクラシックロードの大海は、水平線が見えるがごときに穏やかだ。