3月10日、本拠地・甲子園球場で迎えた原巨人との一戦も落とし、矢野阪神はいまだオープン戦勝ち星ナシ。引き分けを挟んで6連敗となってしまった。
「敗因? 打てないからですよ。『あと1本』が出ないんです」(在阪記者)
9回裏、新人の木浪の長打が出て1点を返した。「一矢を報いた」と報じたメディアもあったが、ファンはガックリと肩を落として帰って行ったように見えた。
昨年もオープン戦から貧打を露呈し、ペナントレース本番も“その通り”になってしまった。「新任監督なので、応援していこう」との雰囲気もあり、関西圏ではチームへのバッシングは出ていない。しかし、2ケタ得点を挙げるような快勝を見せなければ、ファンが「今年もダメか!?」と、ため息をつくのも時間の問題だ。
「矢野監督は新人の木浪(聖也=24)を本当に『開幕・遊撃手』で使うかもしれません。当初、ショートはベテランの鳥谷、北條との争いと見られていましたが、高打率を残しているのは、木浪だけ。チームの起爆剤になるような明るい材料も少ないだけに、その可能性は高い」(プロ野球解説者)
もう一人の新人をめぐる情報も聞かれた。ドラ1ルーキーの近本光司外野手(24)についてだ。日本を代表する強肩捕手、甲斐キャノンの異名を持つソフトバンク・甲斐拓也捕手から二盗を決めてみせた。その盗塁センスとスピードから、「少しくらい打てなくても使うべきだ」とスタメン起用を勧める声も多いが、打率はあまり高くない。近本は中谷、高山、江越らとセンターのレギュラー争いを繰り広げているが、他候補も打撃で結果を残していない。こうした低レベルな中堅手争いを見て
「(二塁手候補の)上本(博紀=32)を外野にコンバートしたら?」
との提案もOB内から出始めた。
面白い案ではある。上本が外野に行けば、打撃に定評のある糸原を二塁で固定できる。
矢野監督はもうしばらくは様子を見るそうだが、“決断”があるかもしれない。上本はもともと、どこでも守れるユーティリティー・プレーヤーだ。
「オープン戦に突入して、守備位置を動かすということは、キャンプで積み上げてきたものを全否定することになります。チームの状態が上がらなければ、矢野監督も考えるでしょう」(前出・同)
修正を急ぐことは悪いことではない。しかし、積み上げてきたものを否定するのは、自身の掲げたチームビジョンを捨てることにもなりかねない。矢野監督が即断できないのは、このあたりにも事情がありそうだ。
「阪神の今年のキャンプは練習量が少ない。ライバル球団のスコアラー、取材者はそんな印象を抱きました。厳密に言うと、練習はしているんですが、選手に迷いがあるというか…」(ベテラン記者)
一般的に、プロ野球のキャンプは午後3時すぎに終わる。といっても、それは全体練習の話であって、その後、投手、野手に分かれての別メニュー練習を始めるか、選手が自主的に決めたメニューにしたがっての練習が続けられる。終了するのは午後6時ごろ。毎日ではないが、午後7時すぎまで練習する選手も少なくない。
矢野監督は今春キャンプで「自主性を重んじる方針」を掲げた。しかし、金本体制で徹底的に鍛えられ、かつ首脳陣が課した多くの練習メニューをこなしてきたため、阪神の中堅・若手は、「自分たちで考えてやってみろ」と言われても戸惑っていたのだ。
「全体練習終了後も、いろいろと練習はしていました。でも、何をやっていいのか分からず、『とりあえず』みたいな雰囲気でした。鳥谷、福留、糸井、能見、藤川はともかく、他の選手は…」(前出・同)
プロ選手ならば、一人で練習し、ペナントレース本番に向けた調整をして当然だが、近年の阪神はそういうキャンプをこなしていなかった。矢野監督の「自主性」は勇気のいる決断だった。方針を少し変えるとしたら、矢野監督にとって、それはつらい決断となる。
阪神のチーム再建にはまだまだ長い時間がかかりそうだ。(スポーツライター・飯山満)