政治部記者がこう語る。
「その解散総選挙の争点と見られているのが、他ならぬ農協の解体なのです。ご存じの通り、政府は昨秋から農業、IT、医療福祉、雇用などの改革を見据えた会議を実施。農業においてもワーキングチームが会議を重ねてきたが、5月22日に農協の総元締めである『全国農業協同組合中央会』(以下、中央会)の廃止を発表したことで、族議員を巻き込んで中央会側が猛反発する騒ぎに発展している。それを見据えた安倍首相が、農協の解体を実現するために、“伝家の宝刀”を抜くとの情報が駆け巡りだしているのです」
ちなみに、農協はかつて“自民党の集票マシン”と呼ばれた一大組織。正組合員、准組合員を合わせ約1000万人が加入し、その支部は全国で約700カ所に及んでいるが、かつての友好団体に安倍首相が後ろから鉄砲を射掛けたことで、俄然、この噂に拍車が掛かっているのである。
自民党議員がこう語る。
「今では6月末の解散、7月中旬の投開票日まで囁かれている。集団的自衛権の行使容認問題は日増しに反対派が増え今では5割に達しているが、このタイミングで解散を打たれたらいまだ自民党の圧勝は確実。そのため、野党筋も解散情報を無視できないと官邸の動きに注目しているのです」
だが、気になるのは集団的自衛権の行使容認問題が熾烈化している最中に、なぜ政府が突如、農協の解体に手をつけ始めたのかという点だ。実は、そこには安倍首相の老獪な策略が渦巻いていると評判なのだ。
全国紙編集委員がその権謀術数ぶりを解説する。
「実は農協の解体を争点とする解散論は、集団的自衛権の行使容認問題、さらには交渉が難航するTPP問題を解決する奇策として、政府内で議論されていたのです。知っての通り、行使容認問題は公明党の反発で暗礁に乗り上げ始めている。同党は『連立離脱』までチラつかせているが、その実、来春の統一地方選での自民党との選挙協力を喉から手が出るほど欲しているのです。このため、安倍自民は農協解体選挙でその溝を埋めて選挙協力。大勝のどさくさで集団的自衛権のミソギを済ませ、巻き返しを図ろうと企んでいるのです」
また、この編集委員によれば、TPP交渉についても周到な策略が張り巡らされているという。TPP交渉が難航しているのは、関税撤廃で米国などの安価な農産物が輸入され、日本の農業が壊滅的になるとの理由から。我が国の農家が反対しているといわれているが、実はこれをけしかけているのが中央会なのである。
「そのため、安倍首相は最大の抵抗勢力である中央会を廃止する農協解体選挙で大勝し、TPP交渉を進める魂胆なのです。しかも、安倍首相の策略はさらに老獪で、5月22日に政府が発表した農業改革案では、企業による農業生産法人への出資制限の緩和なども盛り込み、農家の農協離れを誘っている。農協票がまとまって他党に流れないよう、先手を打った分断作戦を繰り広げているのです」(前出・編集委員)
要は、水面下ではすでに農協解体選挙に向けた“布石”が打たれ始めているようなのだ。
ただ、安倍首相が集団的自衛権の行使容認の成立と、TPP交渉の進展に農協を利用しようとしたのも無理からぬ話というほかはない。実は、農協は我が国の農業を支えてきた組織だが、今では「農業界のガン」とも呼ばれているほどなのだ。
政府関係者が言う。
「もともと、農協は協同組合という形で日本の農業に貢献してきたが、組織が肥大化し、第一次産業に悪影響を及ぼす団体に成り下がってしまった。中でも農家泣かせなのが資材や肥料、農機具などをホームセンターや直営店以上の割高な値段で農家に売りつけている点で、金融機関から融資を受けにくい農家の大半が、この代金を農協から借りて購入している。借金の返済は農産物で得た金から差し引かれるが、返済が追いつかないことも多く、雪だるま式に膨れ上がっている農家が後を絶たないのです」
ちなみに、農協を脱会することは可能だが、これに踏み切ると育苗施設、米の調整施設などさまざまな施設が使用できなくなるという。しかも前記した通り、農家は銀行などから融資を受けにくいため、農業資金だけでなく学資融資、自宅のリフォーム代なども農協が丸抱えで、実質的に脱会は不可能に近い状態なのだ。