この巻は前巻に引き続き七峰透との対決で幕を開ける。『週刊少年ジャンプ』上の連載でも七峰透との再戦に決着がつけられたばかりである。コミックスを読むと最近の連載内容に新たな気付きが生まれる。
七峰は漫画家と編集担当者の二人三脚という現在の漫画雑誌のあり方を真っ向から否定するシステムで挑む。『バクマン。』の中では七峰は悪役だが、担当が漫画を良くするよりも、漫画家をスポイルさせているとの主張は少なからぬ共感を得られるものである。
映画化も決まった『別冊少年マガジン』で連載中の人気作『進撃の巨人』の作者・諌山創は週刊少年ジャンプ編集部に原稿を持ち込んだところ、「『漫画』じゃなくて『ジャンプ』を持って来い」と否定されたという。また、『週刊少年サンデー』に『金色のガッシュ!!』を連載していた雷句誠はカラー原稿紛失を理由に出版社を提訴したが、その背景には「編集者が漫画家を見下している」という怒りがあった。
『バクマン。』でも主役の亜城木夢叶は担当の趣味によって意に添わない漫画を描かされた苦しみを味わっている。その意味で七峰の思想は単なる悪役のもの以上の価値がある。しかし、他誌以上に漫画家と編集の関係が強固な『週刊少年ジャンプ』において、自己否定になるような展開は考えにくい。七峰との対決が自滅という悪役としても恥ずかしい終わり方となったことにジャンプの思想が現れている。
七峰退場後は、アシスタントとして再登場した中井のエピソードでは、かつて主人公と共に切磋琢磨した仲間キャラを、そこまで救いがたい存在に変貌させる作者の思い切りの良さに脱帽である。ここでは怠惰な漫画家の役回りの平丸が熱さを見せる。
中盤は名作『あしたのジョー』のオマージュになっており、漫画好きにはたまらない。主人公は原稿を何度も編集部に持ち込んでは拒絶されるというプロセスを経ていないために、順風満帆なイメージがある。しかし、その裏には常人にはない努力があることを『あしたのジョー』の名台詞を使って描いている。
後半は漫画を模倣した犯罪者の出現による動揺を描く。『バクマン。』の作者コンビは、人気マンガ『DEATH NOTE』も手掛けたが、人を殺すノートを主題とした『DEATH NOTE』に対しても教育や道徳的な見地から批判が寄せられた。それを踏まえて読むと一層味わい深くなる。
(林田力)