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【幻の兵器】試験段階で敗戦を迎えた「中島・キ87・試作高々度戦闘機」

 ガダルカナル島における総攻撃が完全に失敗し、太平洋の戦局が転回点に達しつつあった1942年(昭和17)11月、日本陸軍は中島と立川に対して、高々度近距離戦闘機の開発を命じた。

 当時、既に中島では独自に排気タービン付高々度制空戦闘機の研究へ着手しており、本機はアメリカが42年6月に部隊へ配備し始めたP47サンダーボルトに対抗できる機体を目指していたとされる。特に重視されたのは排気タービンの装備で、外見的にも本機の大きな特徴となっている。

 そして、後述するように戦局の悪化は本機の開発にも少なからぬ影響をおよぼすこととなる。とは言え、これは戦局の悪化を受けたものではなく、基本的には日本陸軍の戦闘機体系に欠けていた高高度戦闘機を補うための開発企画と観たほうが良いだろう。

 また、排気タービンとは、エンジンの排気を利用してタービン(風車)を回転させて遠心力圧縮器を駆動し、それによりを圧縮された空気をエンジンへ送り込むす装置で、ターボ過給器とも呼ばれる。排気タービンはエンジンの効率を向上させる他、エンジンの燃焼に必要な酸素の薄い高高度を飛行する航空機においては、必要不可欠の装置でもあった。しかし、排気タービンは文字通り「高熱のエンジン排気を直にタービンで受け止める」ため、高圧高温に耐える金属材料と高速回転する軸受けの開発が必要だったが、いずれも当時の日本には克服が困難な技術障壁であった。

 陸軍の正式な開発指示を受けた中島では、九七式戦闘機から隼、鍾馗、疾風と日本を代表する主力戦闘機を手がけた小山悌技師を主務として開発にあたった。だが、当時はキ84(後の疾風)の開発が佳境を迎えつつあり(キ84の原型機初飛行は1943年)、小山技師は本機の開発に着手できるような情況ではなかったとされている。

 結局、本機の開発はかなりゆっくりとしたペースで進み、ようやく1944年(昭和19)11月に図面が完成、機体制作に着手するという調子だった。同時に発注された立川のキ94も開発が難航していたが、こちらは1943年末に木型審査まで進んでいたのだから(ただし審査結果は不合格)、いかに小山技師といえどもこなせる仕事量には限界があったということだろう。

 また、当初は戦闘機を相手にする高々度制空戦闘機として開発に着手したものの、途中から爆撃機を目標とする防空戦闘機に変更されたことも、開発の遅れにつながった可能性がある。戦史叢書によれば、日本陸軍はB29の開発を認識したのは1943年2月頃に中立国経由で入手した海外航空雑誌とメディア報道を通じてとあるため、開発目的の変更は43年春以降ということになる。

 ともあれ、図面完成後は比較的順調に開発が進み、1945年2月には原型初号機が完成した。完成した機体は中島戦闘機の路線を継承しつつも、対抗馬となるP47を強く意識した設計であり、機体寸法や重量はそれまでの日本戦闘機と一線を画す存在だった。まず、エンジンの側面の大きな排気タービンが目を引くが、これは被弾時に漏れた燃料がタービンへかかって炎上しないように考えられたとされるが、胴体下面に配置したP47との差別化を図ったとの説もある。ただし、エンジン側面の排気タービンは冷却効率を著しく悪化させたため、改修型では胴体下面へ配置することが決まっていたようだ。また、重防御の爆撃機を迎え撃つための武装も必要とされ、両翼へ30ミリと20ミリの機関砲を装備することとなった。だが、それによって主脚を収納する空間が不足したため、従来とは異なり90度回転して後方へ引き込む方式を採用している。

 こうして原型機の試験が始まったものの、肝心の排気タービンが不具合続出で、特に耐熱性能不足は深刻だった。さらに主脚も作動が不安定で、試験飛行は全て脚を出したまま行われた。最終的に、本機は試験段階で敗戦を迎えたが、このまま開発が続いたとしても先述の排気タービン位置変更を始めとする大幅な設計変更を余儀なくされたことは間違いない。ただ、特異な形状や開発がそれなりに進んでいたこと、飛行性能そのものは素性が良かったとされることなどから、近年では再評価も進んでいる。

 とはいえ、実戦配備までにはなお曲折があろうことを考えると、予定性能を発揮しても遅れてきたレシプロ機に過ぎず、ジェット機には見劣りする存在となった可能性が高いといえる。

(隔週日曜日に掲載)

■「中島・キ87・試作高々度戦闘機」
形式:戦闘機(性能は予定、推定値)動力:ハ219ル空冷星型2450馬力1基
寸法:全幅13.42m・全長11.82m・全高4.49m・翼面積26.00(平方メートル)重量:全備重量6100kg
乗員:1名
性能:最高速度698km/h・航続距離1658km以上・上昇限度12855m武装:30mm機関砲2、20mm機関砲2、250kg爆弾1

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