「矢野、平田」の継承路線を口にするのは、関西の財界関係者たちである。プロ野球に直接関係はないが、「阪神グループは関西財界に強い影響力を持つコンツェルン」だと考えれば、興味深い発言ともいえる。
プロ野球解説者の1人が『金本の引退表明』と『阪神のチーム改革』について、こう分析する。
「チーム再建のキーマンは中村勝広ゼネラルマネージャー(以下=GM)です。今の阪神はレギュラー野手の平均年齢が高く、若手を育成できる土壌を作らなければなりません。そう考えると、高額年俸のベテランから順に切り捨てられていくものです」
金本が引退を表明したのは、9月12日。しかし、その会見には次期監督・矢野氏との相違点も見られた。「大会場を抑え、球団旗をバックに語った」ところまでは同じだが、2011年の矢野氏の引退会見の際は、南信男・球団社長は同席している。しかし、今回の金本の会見は違う。同社長は舞台の袖口から見守っているだけだった。
メディア関係者の1人は「金本は監督も務まるタイプ」と前置きしつつも、こんなベンチ裏の後継も明かしてくれた。
「08年のシーズン途中、金本は自身の発言が湾曲されたとし、トラ番記者に食ってかかりました。以後、金本は一部の関西系メディアを除き、報道陣と口もきいてくれませんでした。その険悪な関係は今も完全解消されておらず、球団幹部はガッカリしていました」
クライマックス進出もほぼ絶望した8月以降、阪神フロントのメインテーマは『チーム再建』へと移った。その際、必ずと言っていいほど議案に挙げられたのが、『金本の去就』だった。その貢献度の大きさに異論を挟む者は一人もいなかったものの、金本自身が引退会見でも語っていたようにこの3年間の成績は、あまりにも悪すぎた。
「和田監督が正式に就任した昨年オフを思い出してくださいよ。阪神フロントは金本に『兼任打撃コーチ』を打診しています。いきなりの引退勧告では功労者に対する敬意がなさすぎます。兼任コーチになってもらって、ゆっくりと(現役から)退いてもらおうというフロントの配慮ですよ」(前出・プロ野球解説者)
金本の処遇は最大の懸案事項でもあったようだ。
8月中旬以降のフロントの動きを改めて追ってみた−−。
8月29日、関西有力メディアが『来季も現役続投』と報じる。同メディアの阪神の詳細情報には定評がある。金本と懇意にしている中堅記者も少なくなく、この一報を知った他球団首脳陣も『現役続投』を既成事実として捉えていた。
同日、中村GMの意味シンな発言も各メディアで報じられている。同GMは若手育成について質問され、「競争社会ですから。(未熟なら)無理に若手を使うつもりはない」と答えている。まだ正式には就任しなかったが、「若いだけで厚遇しない」とする厳しい言葉は、「ベテランと若手を共存させる」「若手が一人前になるまではベテランに助けてもらう」という意味にも聞こえた。中村GMの発言によって金本の『現役続投説』はさらに信憑性を増したわけだが、9月2日、南信男・球団社長が金本に会談を求めてきた。金本は引退会見で、このときに事実上の引退勧告を受けたことを明かしている。
「中村GMの正式な就任発表は9月12日でしたが、球団からオファーを受けた8月中から球団首脳陣と意見の摺り合わせを重ねてきました。関西メディアが金本の現役続行を報じたとき、関西財界やファンの反応は芳しくなく、球団は『功労者の晩節を汚すべきではない』と判断したのでしょう」(前出・関係者)
同12日、チーム再建のキーマン・中村GMは金本の今後について、こう語っていた。
「ユニフォームを脱いでまずは長年の垢を落として、近い将来、指導者としてグラウンドに戻ってきてくれると熱い期待を持って見守りたい」
「一般論として」と前置きこそしていたが、『指導者としての帰還』については「期待して…」という“曖昧な言い方”しかしていない。今後、阪神は金本とどんな関係を築くつもりでいるのだろうか。
※中村勝広GMの発言は共同通信社・配信記事より抜粋いたしました。