意外と嵩むのが、運搬費だという。野球部員が使う練習用具を始め、打撃マシン、ブラスバンド部が手荷物として運べない大型の楽器などの運搬費も計算しなければならない。また、雨天順延となったときも想定し、試合をする野球部員の予備宿泊費も計算に入れておく。しかも、大半の高校は甲子園本番に備え、ユニフォームを新調する。バッグ、グラウンドジャンバー、汗出しのウインドブレーカーなども同時注文するため、野球部員「1人あたり約10万円」の出費となる。
常連校のなかには「甲子園用ユニフォーム」を伝統として継承するところもあるが、その都度作り替える学校もある。同じデザインでも、だ。
その際、帽子のイニシァルを少しだけ大きくするなどのマイナーチェンジがされている。甲子園用のユニフォームを作らない、地区予選と同じユニフォームを使うという選択もできるが、学校にも“お付き合い”がある。
「学校に出入りしている地元のスポーツ用品店が、普段、ボール、バットなどを割安で売ってくれます。他運動部にも配慮してもらっているので、お礼の意味合いもある」(同)
平成10年代の話だが、センバツ大会に出場した関東圏のA高校は「2回戦進出を想定し、総予算7800万円」の予算を組み、お隣の県から出場したB私立高校は、「3回戦まで進出し、9200万円以上の出費があった」と話していた。
「関東圏の高校が決勝戦まで進めば、1億円強の出費は当たり前」
こうした“多額の甲子園費用”は学校予算だけでは当然賄えず、学校OB、地元企業、父母会の寄付のほか、学校職員が地元自治体に頭を下げ、補助予算を組んでもらって対応する。先のA高校だが、地元自治体に200万円を出してもらったそうだ。また、強豪校の多い関東圏西北の市は、地元名門校を応援するため、500万円を出したという。
どの高校からも出たのは「不況で地元企業、商店街の財布のヒモが固い」なる言葉だ。
先のA高校教員が「今では笑い話だが」と前置きし、当時の様子を教えてくれた。
「ウチの高校は野球留学生のいない、普通の公立高校です。地元企業、商店街などに寄付金のお願いに行ったら、『隣町のM市、F市、I市から通っている部員も多い』と叱られ、寄付金を渋られました。M市、F市、I市は学区内ですよ」
地元市民は応援したくても、不況などで学校側の希望する額が出せず、思い付きで心にもないことを口にしたのだろう。
野球部が善戦して、予算を立てた時よりも勝ち進んだ場合は『予算オーバー』となる。その場合は、急きょ生徒から5000円を徴収し、一般市民にも寄付をお願いするつもりでいたそうだ。
寄付金は自治体を含めた地元関係者に頼るところが大きい。したがって、寄付金を集める際、高校職員は「地元」という言葉を強く意識させられる。野球留学生の多い高校であれば、“寄付を頼みにくい状況”となる。
「宗教法人系の高校は、比較的寄付金が集まりやすいと聞いているが」
そう語る指導者もいた。
センバツ、夏の甲子園大会ともに大会本部から「ベンチ入り18選手、監督、責任教師(部長)、記録員(女子も可)」の合わせた21名分の費用は大会本部が支給している。宿泊代は一人1泊約7500円、往復交通費、雑費として、チームに一日一律2万円の計算で、開会式リハーサルの前日から試合で負けた日までが支給される(夏の大会は「登録選手数は一校18選手以内」という書き方)。野球部員が50人いる場合、ベンチ入りできなかった32人分の宿泊費、往復交通費などは出場校の“自腹”となり、2回戦まで試合をしたとすれば、約320万円の計算だ。
支給する側の高野連、主催新聞社にしても、1回戦が終了するまでの間、センバツ大会なら約6000万円、夏の大会なら1億円近い出費となる。1回戦が全て終了するまでの間、雨天順延が続けば、高野連も泣きたい心境だろう。
(スポーツライター・美山和也)
※甲子園出場に関する経費は取材当時の金額であり、地域によって移動費は大きく異なります。当サイトが記載した金額は、関東圏の高校数校を取材した限りのものです。