甲子園出場は、学校にとっても名誉なこと。しかし、何故、出場決定後が本当の戦いなのかと言えば、遠く離れた甲子園球場で試合をするためには“多額な交通宿泊費”が掛かる。さらに、応援団やブラスバンド部、チアガール、ベンチ入りから外れた野球部員、引率教員の移動費も加わり、OBや父母会の移動に関しても予算を投じなければならない。
甲子園に出場すると、その高校は一体、いくら用意しなければならないのか、リサーチしてみた。
「前年秋ごろから『出場の可能性がある』との報告が野球部の責任教諭から出れば、いちおうその準備は始めます」(関東圏の公立校教員)
準備とは『甲子園出場に関する支出の見積もり』だ。出場経験のある学校、県高野連に相談し、「だいたい、これくらいは…」という金額を聞く。本格的に動き出すのは夏の地方予選でベスト8か、ベスト4に進出してからだそうだが、この時点で、どんな用意をしなければならないのか、具体的に『支出項目』を教えてもらうという。
まず、常連、初出場ともに出場各校が頭を悩ませているのが、応援団の遠征費。出場校は移動バス、食事、グッズなどの費用を用意しなければならない。応援団員、ブラスバンド部、チアガール、ベンチ入りから漏れた野球部の補欠、引率職員はもちろんだが、ここにOBや父母会が加わると、約1000人が移動する計算になる。
移動バスは地元観光会社、修学旅行などでお付き合いのある旅行代理店を介し、チャーターで20台を確保。応援団らを甲子園近郊で宿泊させるわけにはいかないので、試合の度に日帰りとなる。関東圏の学校であれば、「往復ともに車中泊としても、高速代を含めて1台あたり約30万円」とのこと。仮に2回戦まで進んだとして、「30万円×20台×2試合=1200万円」の計算になる。
「試合当日の早朝、もしくは前日深夜に学校に集合させ、そこから出発します。食事は申し訳ないが、1食しか用意できない。地元業者に割引交渉をし、1人500円くらいで幕の内弁当とお茶を人数分注文して」(前出・同)
グッズ代というのが、実は重要なのである。
学校によっては別の支出項目名を使っているそうだが、先の約1000人分の応援団ご一行分の帽子、メガホン、そして、横断幕などの製作費も捻出しなければならない。また、センバツ大会であれば、防寒対策も兼ねたウインドブレーカー、夏の大会ならTシャツが人数分製作される。これに「アルプススタンド席の入場料300円×1000人×2試合=60万円」が加わる。
これだけではない。寄付をしてくれた地元関係者、OB、父母へのお礼としてキーホルダー、タオルなどのグッズも製作しなければならない。これらの経費が800万円強とされ、
「学校の出入り業者、お付き合いのある地元業者のほかに、突然、卒業生が就職先の上司を連れてきて、売り込みをすることも少なくありません。卒業生も無下にできませんし、『タオルはこちらの業者、メガホンは向こうの企業、帽子は卒業生の会社に』といったような配慮するのもひと苦労でした」とも語っていた。
2回戦まで戦うとして、野球部員の移動費、宿泊滞在費も加えて約2000万円という計算だ。しかし、出場校の出費はこれだけではない。
(スポーツライター・美山和也)
※甲子園出場に関する経費は取材当時の金額であり、地域によって移動費は大きく異なります。当サイトが記載した金額は、関東圏の高校数校を取材した限りのものです。