去る11月27日、高野連は理事会を招集し、兼ねてから導入を検討している『タイブレーク制』について“結論”を出した。といっても、原案を修正しなければならなかった。10月の技術・振興委員会で話し合った時点では、春の都道府県大会と各地区大会で「来春から一斉導入する」スケジュールを描いていた。しかし、一部から「1年先送り案」が出て、地区大会のみで導入することに改められたのである。
「大きな改革なので、大会後(来春の地区大会)にさまざまな意見を聞いて検証する。一歩一歩、進んでいきたい」
竹中雅彦・事務局長はそう伝えたが、ここに来て“導入への慎重論”が出るとは思っていなかったのではないだろうか。10月時点では「(来春の導入は)将来的に甲子園大会に導入するステップ」とも語っていたのだ。
そもそも、高野連が延長タイブレーク制の導入を検討した理由は、選手の健康を守るため。高校野球に詳しいジャーナリスト、メディアからは「日程問題など、他に改善する方法もある」との声も聞かれたが、導入議論の始まりは、『引き分け再試合』や『雨天順延』などで大会中の休養日が消滅したことで、今夏の軟式大会・準決勝で延長50イニング、計4日間に渡る“死闘”を受け、「サスペンデッド(=一時停止試合)にも限界がある」と痛感させられたからである。
高野連はこれまでにも日程問題に取り組んできた。大会期間を増やすのがいちばん手っ取り早いが、そうなった場合、学校行事にも影響が出る。文部科学省にも協力と許可を求めなければならないだろう。
「いや、今回、地区大会のみに制限したのは『学校側に影響を与えてしまう』と分かったからなんです」
県高野連役員の1人が匿名を条件に理事会の内容を教えてくれた。
春季大会は3月から始まる。しかし、同時期は学校教員の異動もある。県高野連は公立校の責任教諭が要職を任されており、その定期的な会合に野球部長や監督が出席する高校も多い。
タイブレーク制の導入準備に当たってきた教諭指導者が『異動』となった場合、「専念できない」というわけだ。
都道府県の高野連は教員が要職を務めているが、全国を統括する中央の高野連には学校関係者がいない。前出の県高野連役員によれば、都道府県の高野連を見ても、「私立高よりも公立校の責任教諭が要職に就く」ケースが多いそうだ。走者を置いた設定からゲーム再開となるタイブレーク制は、高校野球の歴史を変えると言われている。まさに『改革』である。ここまでの経緯を振り返ってみると、全国の硬式加盟校4030校にアンケートを行ったとはいえ、技術・振興委員会で議論が始まって2か月ほどしか経っていない。教員の人事異動を見落としたのも、結論を急ぎすぎたためだろうか。(スポーツライター・美山和也)