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「渋井哲也の気ままに朝帰り」 こだわりの店の嬢と条件闘争

 「『Z』(注意:仮の名前)という店に行きたいんですよ。一緒に行きましょうよ」

 「行ったことあるの? どんな店?」

 「別の店で知り合った子が『Z』で働いているっていうで行きたいなと思って」

 今年になって飲み屋で知り合った会社員の男性(30)は、『Z』という店がどこにあるのかを知らないのに、一緒に行きたいという。「この辺りだ」というが、近くをウロウロしても見つからない。行きたいというのなら、せめて場所を調べておいてほしいものだ。

 すると、男性の同僚(32)が、

 「『Z』って聞いたことあるよなぁ。たしかこっちじゃないか」

 と言って、探していると、ようやく見つけることができた。さっそく値段交渉をして、3人で入店する。店の雰囲気は悪くない。しかし、男性の目当ての子は休みだったようで、がっかりしていた。しかも、店の雰囲気はよいのに、女の子の接客態度やトークのスキルはそれほどよくない。その後、近くの喫茶店で反省会をし、

 「あの店は、もう二度と行くまい」

 と私と、男性の同僚は誓ったものだった。肝心の男性はどうだったのか。酔っぱらっていて、要領を得ないと思ったら、さっそく数日後、私が自宅でくつろいでいるときに、男性から電話がかかってきて、

 「いま、『Z』にいるんですよ。来てください」

 と呼び出しを受ける。しかし、どうして、男性が『Z』にこだわるのかも知りたいと思い、呼び出しに応じることにする。合流すると、すでに男性は『Z』を出ていたが、

 「今夜は、強制指名日だったようで、『指名とれないとクビになっちゃう』って言われたんですよ」

 という。でも、その子が「クビ」になったとしても、どうして男性がその子を助ける理由があるのか。

 「『行ったらなんかあるのか?』聞くと、『なんかあるよ』というので、映画とコンパを約束させました」

 映画とコンパのために4万も使うとはよほど口説きたい女性なのだろうか。でも、冷静に考えれば、4万を使えば、映画とコンパは普通にできるんじゃないか、と思ってしまった。いや、むしろ、仲良くなっていれば、キャバクラ嬢とだって、映画くらいは普通に行けるでしょ? って思うのですが、そんな条件を勝ち取ってまでキャバクラで指名なのか、と思ってしまった。

 男性はそのキャバクラ嬢と映画に行くことができたのだろうか。また、コンパはどうなったのか。どんな成果があったのか、聞いてみたいと思う。

<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。

【記事提供】キャフー http://www.kyahoo.jp/

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