「クライマックスシリーズで爆発した打線の勢いをそのまま持ち込んだような感じ。ホークス打線が巨人のリリーフ陣を打ち砕いています。もともと、巨人は救援陣に軸となる投手がいませんでした。ホークス打線と巨人救援陣の力の差が、そのまま勝敗に表れたと思います」(プロ野球解説者)
見方を変えれば、巨人打線がソフトバンクの投手陣に苦しめられているわけだ。
巨人サイドから漏れ伝わってきた話では、ソフトバンク投手陣の中でもっとも警戒していたのは、アンダースローの高橋礼(23)だったという。セ・リーグには「いないタイプ」だからだ。
今さらだが、ソフトバンクは投打ともに選手層が厚い。単にレギュラークラスが多いだけではなく、選手もバラエティに富んでいる。投手陣にしても、第一戦先発の千賀滉大のような速球派もいれば、和田毅のような技巧派がいて、右、左のバランスも良い。巨人打線はアンダースローに“違和感”を抱いていたはずだ。
アンダースローといえば、原辰徳監督(61)と工藤監督の野球観の違いを物語るエピソードがある。
2000年の巨人・春季キャンプでのことだ。この年、ヘッドコーチに昇格したのが、原監督。そして、工藤監督は現役で、「優勝請負人」として、フリーエージェントで巨人に移籍してきたばかりだった。
そんな巨人キャンプに、アマチュアの強化策で参加していたのが、のちに侍ジャパンでも活躍するアンダースローの渡辺俊介だった。アンダースローの物珍しさで巨人投手陣は渡辺の投球練習に見入っていた。
「すげえ」「あんな低いところから、よく…」と巨人投手陣は感心していたが、工藤監督だけはちょっと違った。
「バランスが良い。チームに合う」
当時の巨人関係者によれば、工藤監督は「彼は絶対にモノになるから、指名すべき」と裏方スタッフにも話していたそうだ。
移籍一年目の球団に「指名すべき」と進言する工藤監督もどうかと思うが、「巨人は守備の巧いチームだから、打ち損じを誘う技巧派のピッチャーを生かせる」との持論も展開していたそうだ。
それに対し、ヘッドコーチとなった原監督は守備練習のノッカーを買って出て、あとは、主力野手のティー打撃を見守っていた。「選手のレベルを上げていく。それが積み重なってチーム全体の…」と記者団に語っていた。
「原監督は野手陣が練習するメイングラウンドを離れませんでした。キャンプ訪問に来たOBが『ヘッドコーチになったんだから、ブルペンにももっと顔を出しなさい』とアドバイスをしていました」(当時を知る関係者)
原監督は野手出身なので、投手の指導には口出しをしないと決めていたそうだ。
工藤監督はチームに合致する選手かどうかを見て、原監督は個々を引き上げて、その集合体がチームであるという考え方なのかもしれない。チームが先か、個人が先か。正解はない。勝ったほうが正しいということになる。日本シリーズは2試合を終え、速球派とアンダースローの両投手を強力打線にはめ込んだソフトバンクに軍配が上がり、原監督はエース菅野智之の投入で流れを変えようとしている。
(スポーツライター・飯山満)