F病院は、愛知県T市にある有名な大学病院で、著名人も治療を受けたり、TVや新聞にも取り上げられるほど有名な病院である。この敷地内には病院・病棟・大学・専門学校・学生寮・職員寮・駐車場などがひしめいている。
最新の医療機器を備えた大学病院であるが、この地は1558年に行われた桶狭間の合戦の古戦場にあたる。そして、職員駐車場の近くにあるニゴリ池は、合戦の時に討ち取られた武将の首を洗ったという言い伝えが残っている。いわくつきの土地に建つ病棟では「首無し幽霊を見た」、はたまた「落武者の霊を見たから、部屋を代えてほしい」などと言う患者もいたという。
さて、問題の家は、処方箋を調合してくれるS薬局の隣に位置する民間の家である。近くに学生専用の駐車場もあり、昼中は人通りも多い。しかし、この家は人の気配がまったく感じられないのだ。早朝から外出する様子もなく、暗くなっても明かりがともることもない。唯一、生活感が感じられるのがキッチンの窓で、食器専用洗剤のシルエットが見えるだけだ。土地柄も土地柄なので、庭に植えられた木々さえ、一層不気味さを醸し出している。
この家の住民は何処に消えたのだろうか? 一家全員が赴任先へ引っ越したのだろうか? 棲むことを拒否して逃げ出してしまったのか? まだ売りには出された様子はない。
(「三州(さんず)の河の住人」皆月斜 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou