人間に似せたロボットがあると仮定して、動きや外見をどんどん人間に似せていくと、ある時点で言いようのない不気味さを感じてしまう、というものだ。当初は違和感を覚える程度だったものが、やがて強い嫌悪感にまで発展してしまう。だがそれが行き着くところまでいくと、今度は再びポジティブな印象を抱くようになるというものだ。これはロボットだけではなく、人形やイラスト、CGなどの造形にも当てはまる。
>>まるでB級映画の世界!? 毒ガスを吐く「宇宙人ロボット」が現れた!?<<
この「不気味の谷」現象は、東京工業大学の森政弘名誉教授が1970年に提唱したもので、この時点ではまだ仮説の域を出ていなかった。だが、技術の進歩により動きや見た目を人間に似せられるようになると、奇妙な違和感や嫌悪感を持ったとの報告が出てくるようになり、「不気味の谷」が実在することが判明したのである。
その後、2011年にカリフォルニア大学が人型ロボットを用いて実験を行い「不気味の谷」は人間の共感能力の限界により発生するものであるという結果が出た。「不気味の谷」現象に関する研究は現在も行われており、ロボットがどんどん身近なものになっていく現在、社会の中でいかにロボットを活用していくべきか考える際の指標にもなっている。
さて、「不気味の谷」を誰しもが持っているということは、かつて人類がこの感覚を必要としていたことの証である、という指摘もある。「自分と似ているようでいて微妙に違う」存在を退けようとする「不気味の谷」の感覚を有する生物は、人間以外だとマカクザルなど、一部の霊長類でしか確認できないそうだ(プリンストン大学の研究による)。ということは、「人類は昔、人間によく似た別の何かから逃げる必要があった」ため、人間とそれ以外を見分けなければならず「不気味の谷」を作り出す必要があったのではないか、というのだ。
では、その「何か」とは何だったのだろうか。「大昔の化石人類との交雑を避けるため」という説や、「生息環境の違う、別のグループに属している人間たちと区別する必要があったため」という説、また「死体や病気になった人間に対する本能的な恐怖」という説もある。中には「古代の人類は、人間そっくりの別の生命体から逃げる必要があった」と唱える者もいる。
「不気味の谷」の正体が判明する日はくるのだろうか。
(山口敏太郎)