内容紹介も兼ね、6月14日に渋谷「UPLINK FACTORY」で行われた上映会での感想を記そう。2008年6月8日に発生した秋葉原無差別連続殺傷事件。女性映像作家が残した日記とビデオテープには、事件の容疑者Kと、そして親友Kに関する記録が収められていた。事件をきっかけにして無情感に苛まれた彼女は、何か自分に出来ることはないかと、事件の起きた秋葉原や容疑者の出身地をさまよい、為すべきことの手掛かりを探す。
容疑者は既に逮捕されているから、もちろん犯人探しが目的ではない。けれど間接的に事件に巻き込まれ、打ちひしがれた想いをどう処理すべきか分からないことには、先にすすめないのだ。彼女の追体験をする観客の僕らも、いつしか奇妙なわだかまりを抱えていることだろう。それをどのように扱うかはそれぞれが判断するしかないが、おそらくそのヒントは風景の中に隠されている。
怖く悲しい映画だ。都市や郊外から切り取られた情景に、次から次へと挿入される思想や詩情。デリケートなセンチメントにパンキッシュなノイズが交錯し、安堵や不安の混在した亜空間へ僕らをいざなう。人物がまともに映し出されることは殆どなく、そのかわりに世界それ自体の息づかいが聞こえてくる。それはまぎれもなく自分たちが住むこのセカイの、誰もが見なれた風景。しかしそこには何か、別のものが宿っているかのように視える。映そうとしないからこそ映り込んでしまう、いわば心霊的な何かが。その正体は、皆さんの目で確認してほしい。(工藤伸一)
・『夢ばかり、眠りはない』上映+トークイベント in本郷
http://yumenemuri.web.fc2.com/html/menu_01_6.html
開催日:2010年12月4日(土)
時間:上映17:00(トーク19:15)
料金:無料
場所:東京大学 情報学環・福武ホール 福武ラーニングスタジオ2・3
企画・主宰:坪井遥(twitter ID @YashinNoMeisou)、北村剛貴(twitter ID @gauqui)
・『夢ばかり、眠りはない』公式サイト
http://yumenemuri.web.fc2.com/