そのエースをサポートしたのが、FA移籍してきた炭谷銀仁朗捕手(31)だ。
「菅野が一軍に再合流した7日、試合前の練習中、キャッチボールの相手を務めたのが炭谷でした。菅野自身、同級生でもある小林誠司との相性の良さを語っていたので、ちょっと驚きでした」(スポーツ紙記者)
それまで、今季、菅野が登板した8試合は、全て小林がマスクをかぶってきた。この時点で、復帰マウンドは「小林ではなく、炭谷とのバッテリーになる」と、メディアの多くは予想していた。
小林と炭谷、どちらも侍ジャパンに招集されたトップレベルの捕手だ。原辰徳監督が小林ではなく、炭谷とのバッテリーを選択したのは、何か狙いがあったからだろう。
「同じチームに在籍しているキャッチャーなんだから、配球に大きな違いは出ないはず。対戦チームのデータを挙げてくるスコアラーが同じなんですから。そのデータの活用の仕方でキャッチャーの個性、配球の特徴が出るものなんです」(プロ野球解説者)
試合前、スコアラーは対戦チームの主力バッターに関する「傾向」を報告する。内角、外角、高め、低めのどのコースを安打にしているのか、また、どんな球種を待って安打にしているのか、だ。
その報告書は、先発投手だけではなく、リリーフ投手も目を通す。スタメン・マスクを被るキャッチャーはもちろんだが、試合前、バッテリー担当のコーチも加えて、配球について話し合いをする。前出のプロ野球解説者が言う、「配球に大差はない」の根拠は、ここにある。
しかし、データの活用法にキャッチャーの個性が出てくる。
「苦手コースに決め球を投げさせる配球もあれば、相手の得意コースからボールの軌道が外れていく球種を使って、打ち損じを誘う配球もあります。どちらを選択するかはキャッチャー次第。まあ、走者の有無、アウトカウント、試合終盤で1点も与えられない場面なのかどうか、状況によって変わってきますが。また、試合中、データ通りに行かないことのほうが多いので、あとはキャッチャーの感性に頼るしかないんです」(前出・同)
投手目線で言えば、キャッチャーには大きく分けて、2通りのタイプに分けられるそうだ。ピッチャーの気持ちになって、「投げたい」と思っている球種を予測し、それを投げさせ、ノセていくタイプと、「オレに付いてこい」の発想で配球を組み立てるキャッチャーだ。巨人関係者によれば、炭谷と小林はその両方ではないそうだ。事前の打ち合わせを大切にする“投手との協議タイプ”だという。
「小林は菅野とはプライベートでも仲が良く、これまで二人三脚でやってきました。炭谷は移籍してきた分、菅野を客観的に見ることができます」(球界関係者)
客観性。この試合、菅野に小さな変化が見られた。初回はワインドアップで投げていたが、2回以降は走者のいない場面でもセットポジションで投げていた。
菅野は変化球も多彩だが、ストレートも速い。セットポジションになると球速が落ちるものだが、制球力は安定する。菅野は炭谷の初回の配球を見て、より正確に、要求されたコースに変化球を投げ込まなければならないと考えたのではないだろうか。
「炭谷は西武で長くレギュラーを張ってきました。パ・リーグのことは小林よりも詳しい」(前出・同)
パ・リーグを知り尽くしたキャッチャーを信じ、今、自分のできることをやろうと菅野が思ったのならば、炭谷を起用した原監督の狙いは見事に的中したようだ。エースの復帰勝利がチームを活気づけたことは言うまでもないだろう。
(スポーツライター・飯山満)