去る5月14日、松坂がナゴヤ球場のブルペンで、捕手を立たせて50球、座らせて22球を投げ込んだ。その後、「違和感なく投げられた」と球団を介してコメントを伝えた。しかし、復活マウンドはまだ先の話ではないだろうか。
「2月のキャンプ初日に投げ込む量よりも少ない。まだ試運転と呼べるレベルにも来ていません。長い目で見てあげないと…」(プロ野球解説者)
厳密に言えば、松坂は4月下旬からブルペンの傾斜を“体感”している。この時点では投球練習と呼べるものではなく、「実戦同様、傾斜のあるところで投げ込み、肩に痛みが出ないかどうか」を確かめていた。傾斜でのキャッチボールから投球練習へ。松坂にとっては大きな前進なのだろう。
しかし、前述のプロ野球解説者のコメントのように、客観的な評価を聞く限りは、まだ一軍レベルには戻っていない。
「先発投手陣の頭数が不足しているわけでもないので、松坂の復帰を急がせる必要はありません。ただ、松坂が出るとお客さんが喜ぶので、中日球団の営業サイドは『一日も早く』との心境だと思いますが」(地元紙記者)
復帰の時期について聞いてみた。調整がこのまま順調に進むことが大前提だが、「松坂次第」なるコメントが多く返ってきた。この言葉は意味深い。
「昨季まで指揮を執っていた森繁和監督(現シニアディレクター、以下SD)は、松坂を特別扱いしていました。その善し悪しはともかく、松坂の調子に合わせて、他の先発投手の登板日まで変更していました」(関係者)
森SDは松坂が西武ライオンズに入団したころの投手コーチだった。森SD側にも特別な思いがあったのは間違いない。また、与田剛現監督(53)は、09、13年のWBCで日本代表チームの投手コーチを務めた経験を持ち、“日本のエース”だった時代の松坂を知っている。伊東勤ヘッドコーチ(56)も、松坂とは西武時代に「監督・選手」の間柄だった。
つまり、中日には「松坂をなんとかしてやりたい」と思っている人が多いのだ。それも、監督、ヘッドコーチといった強い権限を持つ立場にある人がそう思っている。
「松坂の性格も影響しています。ローテーションを『松坂の都合次第』で変更されても、中日投手陣から不満の声はひとつも出ていません。『良いヤツ』なんですよ。だから…」(前出・同)
これでイヤなヤツだったら、中日はチームとして、とっくに崩壊していただろう。
しかし、松坂はこうしたチームの温情に応えていない。森SD、与田監督、伊東ヘッドは全盛期の松坂を知っているだけに、単に一軍マウンドに帰還するだけではなく、勝利投手にならなければ「晩節を汚すな!」と通達するだろう。
「昨季の松坂は打ち損じを誘う綱渡りのピッチングでした。次に一軍登板するときは勝てなければ、戦力として見てもらえないでしょう」(前出・同)
松坂には今のリハビリに専念できる環境、そして、復活を信じて球団が全面協力してくれるのも、これが最後だと認識してもらいたい。
(スポーツライター・飯山満)