南の島が舞台になっているため、映画の中には現在も語り継がれているポリネシアの島々の伝説が随所に出てくる。モアナの旅に同行する英雄マウイはその筆頭だ。
さて、映画の中にはココナッツの殻を被り、徒党を組んで襲いかかってくる「カカモラ」という小人たちが登場する。コミカルな見た目に反して狂暴な側面があるカカモラだが、このカカモラもポリネシアの島々に語り継がれている精霊だ。
ソロモン諸島の南東端にあるサンクリストバル島に伝わっており、別名「カカンゴラ」とも呼ばれ近隣の島では「プワロンガ」の名前で呼ばれることもある。
大きさは非常に小さなものから膝丈ほどで、長い髪をしており鋭い爪と牙を持っているという。あまり可愛らしい見た目ではないそうなので、映画のカカモラもヤシの実の装飾を外すと恐ろしい姿が出てくるのかもしれない。
カカモラは金銭を蓄えており、彼らの王や女王に宝物を献上するという風習が有り、人間を襲っては宝物を奪い、時に殺して食べてしまうこともある非常に凶暴な特徴があった。だが、ある時人間に逆襲されて以降、懲りてしまったのか人を食べないようになったという。
カカモラを撃退したのは、村の子供たちだった。彼らはカカモラの巣穴の近くで待ち伏せて髪の毛を掴み、引っ張りだしてはお尻を突っつくいたずらを繰り返したのだ。考えようによっては恐ろしいいたずらだが、人間にやり返されて懲りてしまったのか、以降カカモラは人間の、それも子供には手を出さなくなったという。
現在では、カカモラは地元の人に親しまれる伝説上の存在となっている。現地ではカカモラの姿を彫刻した食器などが作られており、お土産として販売されてもいる。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所