わずか1/1000秒に集約されるそのエネルギーは、小説『フランケンシュタイン』で怪物を蘇生させ、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではタイムスリップの原動力に利用されている。この莫大なエネルギーがもたらす不条理は、フィクションの世界にとどまらないようだ。
その日、イタリアでは広範囲に渡り、大気の状態が不安定だったのだろうか。少なくともジェノヴァとナポリでは、雷鳴が轟いていた。その稲妻の一つが同時刻、それぞれの地で女性を直撃した。ジェノヴァでは30歳のニネッタ・ブッジが自宅ベランダで、ナポリでは39歳のジコーラ・ムッセーノが駅へ向かう道中でのことだった。失神した二人は、すぐさま病院へ運ばれ治療を受けた。そして気付いた時、各人が話した名前、事故時の状況、居住地は入れ替わっていた。つまり、ニネッタが、自分はナポリのジコーラで駅へ向かっていたと言い、ジコーラが、自分はニネッタでジェノヴァの自宅ベランダにいたと言ったのだ。しかし、600km離れた双方の病院では、この関連性に気付くわけもなく、落雷によるショックで精神が錯乱しているとされた。
このミステリーは、誰に知られることもなく闇に葬られようとするかにみえた。が、身体よりも精神状態が深刻として、二人が同じ精神科病院へ転院されたことで、お互いの精神が入れ替わっていることが判明した。落雷によって二人の女性にもたらされた、医学的に説明できない不条理は、皮肉なことに病院で白日の下に晒されることとなった。
(七海かりん 山口敏太郎事務所)