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地方に伝わる海洋奇談

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画像はイメージです。

 海は、海辺で暮らす人々にとって、生活の糧を与えてくれる大切な場所である。一見、穏やかに佇む海も、突如一変して牙を剥き、人々に襲い掛かることがある。幾多の哀歓を重ね形成されてきた海への畏敬の念は、長く語り継がれる伝説を生む。

 伊豆大島の泉津村。海難法師の伝説が残るこの村では、毎年1月24日の夜になるといつもより厳重な戸締りをする。明かりを外に漏らさないようにして、物音を立てずに一夜をやり過ごすのだ。
 昔、村人たちは酷薄な悪代官に苦しめられていた。ある時、業を煮やした若者達25人が相談の末、悪代官を殺すことを決意し、暴風雨に紛れて決行した。そして造った丸木舟に乗り込み、島から逃亡した。ところが、どの島へ行ってもかくまってもらえなかった。全ての村が、かかわりあうことを拒んだのだ。皆のためを思い、決死の覚悟で挑んだ彼らの思いは如何程だったであろうか。疲労と喪失感に打ちひしがれた彼らは、ただ、荒れ狂う波間を漂流するしか術はなく、やがて丸木舟は転覆し海の藻屑と消えた。以来、1月24日になると丸木舟に乗った彼らが、五色の旗を翻し島々を巡るという。

 また昔、志摩の海女は海底へと潜っていくと、自分と瓜二つの海女に遭遇したという。気味の悪い笑みを浮かべ近付いてきて、アワビ等をくれ、手を引いて海底深く潜ろうとする。アワビがたくさんいるのかとついて行くと、息が続かず溺れてしまう。必死の思いで手を振りほどき海上へ浮上しても、辺りに人影はない。ところが、潜るとどこからともなく現れ近付いて来る。
 それは、共潜(ともかつぎ)と呼ばれる妖怪で、一人の海女が遭遇すると、全ての海女も数日海に潜るのを控え、共潜が去るのを待ったという。

(七海かりん/山口敏太郎事務所)

画像は「絵本百物語」より、同じく海に出る「船幽霊」の図。

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