だが、所謂グルメ系ライターの間で密かに囁かれていた、こんな都市伝説が存在するという。
Wさんはかつて大のラーメン好きであった。ラーメン好きが高じてグルメライターのような仕事をやり始め、とうとうラーメンのグルメ本を出すに至った男である。
そんなWさんが体験した話である。
(あの店はとんでもない材料をスープに使っているらしい)
(その材料は秘伝中の秘伝で他人には教えないが、その店のラーメンがクセになる原因となっているらしい)
こんな噂を聞いたWさんは、某都市で開業する屋台ラーメンを訪れた。
頑固そうな親父が経営する小さな屋台店であった。
「いらっしゃい」
武骨な親父はどこか職人気質を感じさせ、Wさんは確かな期待を予感した。
「この親父できるな、問題スープの材料だな」
Wさんは、親父が手際よく仕上げたラーメンをすすった。
(旨い、確かに旨い、麺やチャーシューはなかなかの及第点だが、スープは抜群にいい、でもこの旨さ、いったいなんだ)
Wさんは視覚、臭覚、味覚を駆使し、その原材料を探った。
だが、どうしてもわからなかった。
(こまった、この俺にわからない事があるなんて)
Wさんは、ラーメンライターとして、敗北感に打ちのめされた。
そして、覚悟を決め、店主の親父に土下座して原材料を聞いた。
「頼む、教えてくれ」
店の親父は一言こう言った。
「このスープの原料は胎盤だ。みんな、胎盤の味は胎児の頃を思い出して安心するらしい。癖になるのはその為さ」
ちなみにその後、あの味や親父の話が忘れられなかったWさんは何度かその町に足を運んでみた。しかし、あの人気の屋台ラーメンはその町から姿を消していた。
もしかすると、誰も知らない場所でまた屋台を出しているのかもしれない。
(監修:山口敏太郎)