苛烈な伊江島での戦争を藪の中のガジュマルの木に立てこもって戦後2年もの間生き抜いた宮崎と地元出身兵の実話をもとにした「木の上の軍隊」と、沖縄の混沌の時代を圧倒的な筆力で描写し、直木賞を受賞した真藤順丈氏原作の「宝島」の映画版である。以下は1949年に沖縄に生まれ、幾らかでも米軍政の実態を体験した記者の率直な意見であることを断っておく。
「木の上の軍隊」は、二人の兵士が情報を遮断された中で軍人としての矜持(きょうじ)と葛藤を乗り越えていく過程を克明に描いた傑作で有るように感じた。
一方、題名が魅力的な「宝島」は、上映時間が3時間11分と長く、冗長で騒々しい映画というのが記者の感想である。
主人公たちは戦果アギヤー(共通語に直せば戦果を挙げる人たちという意味)と呼ばれる戦災を生き抜いた若者たちである。敵であった米軍の物資を密かにあるいは堂々と盗む行為は戦争の継続と同じという理由から犯罪という認識はなかった。
衣食住、医薬品あらゆる物資が不足する中で、物量があふれている米軍基地から分捕る戦果アギヤー達は、現在の物流業者の役割を果たしていた英雄であった。嘉手納基地に忍び込み戦果獲得を目指したリーダー・オン(永山瑛太)が行方不明となり、その行方を捜すことを伏線として映画は進行する。その過程で主人公のグスク(妻夫木聡)は刑事、オンの弟・レイ(窪田正孝)はヤクザ、ヒロインのヤマコ(広瀬すず)は教師になる。
戦火に晒された沖縄では、米軍以外の公権力は機能せず、強いものがリーダーとなる下剋上の時代であった。すべての秩序が無力となり目端の利くものが成り上がる、自由な気風に満ちていた。
映画では米軍人をカモにして稼ぐコザ特飲街の女たち、教師となったヤマコが日本復帰を求めて奔走する姿、反米機運を取り締まるアメリカ軍情報部の将校、悪石島の密貿易と多くのエピソードを詰め込んで進行する。
映画の終盤に描かれた1970年12月のコザ暴動の描写は、息つく暇もないほどの迫力である。これほどの熱量でコザ暴動を描いた映画は他には見たことがない。
しかし、全体としてみた場合、密貿易、ヤクザの抗争、沖縄の民衆の宴会や葬儀のシーンなど細切れのエピソードを詰め込み過ぎで焦点がぼやけているように感じる。もし、他の観客がいなければ、席を立っていたかもしれない。そんなむずむずした気持ちを抑えながら最後まで見てしまった。
取材・文/照屋健吉 リアルライブ編集部