9月7日に「2ちゃんねる」を構成するサーバの一つ「kamome」がダウンした。サーバが起動できない状態になったという。「2ちゃんねる」は「板」と呼ばれる様々なジャンルのカテゴリーに分かれている。ダウンの結果、kamome上で稼動していた「ニュース速報+」「芸スポ速報+」など多数の板の閲覧・書き込みができなくなった。
「2ちゃんねる」では8月2日に複数のサーバを統合したばかりであり、一台の故障で多数の板が影響を受けた。一般に指摘されているサーバの統合によるリスクが顕在化した形である。
アクセスできなくなった板は9月中旬以降、既存データなしで順次復旧し、新規書き込みが可能になった。しかし、問題は9月23日現在においても既存スレッドの復旧がされていないことである。既存スレッドのURLにアクセスすると、「datが存在しません。削除されたかURL間違ってますよ。」と表示されたままである。
運営側の日記によると、kamomeサーバのHDDを設置場所の米国から日本に空輸して解析中であるが、復旧に対する明確なアナウンスはなされていない。サーバダウンで既存データが復旧しない状況は、商用のサービスならば考えられないことである。しかも、「2ちゃんねる」のデータはテキストであり、他のサービスと比べてバックアップやリストアは相対的に容易なはずである。
「2ちゃんねる」の書き込みを文字通り「便所の落書き」と位置付けるならば、蛆虫が消えても別の蛆虫が現れるという程度の認識にしかならない。それならば既存スレッドの復旧という手間暇をかけることをせず、既存スレッドなしの状態で板を復活させることが道理的になる。しかし、それは「2ちゃんねる」の魅力を自ら削ぐことになる。
人気漫画のネタバレのような速い情報交換を売りとするとならば、既存スレッドが復旧しなくても問題ない。しかし、リアルタイムの情報伝播という点ではツイッターに差をつけられている。「2ちゃんねる」に残るものは、それこそ漫画のネタバレのような後ろめたい情報ばかりとなってしまう。
「2ちゃんねる」の魅力は、他の有力サービスと同じくロングテールにある。「『ハッキング』から『今晩のおかず』までを手広くカバー」とのコピーに違わず、現実社会での物理的な距離に制限される人間関係では出会うことが困難なニッチでマニアックな話題も「2ちゃんねる」では意見交換可能である。この点はSNSに差をつけられつつあるところであるが、それでも「2ちゃんねる」が圧倒的な優位性を有する部分もある。
それはインターネット初期からの蓄積である。「2ちゃんねる」には僅か年間数十レス程度であっても、ゼロ年代からのレベルの高い議論が積み上げられているスレッドも少なくない。特にアスキーアートやコピペ文などは職人芸の域に達している。ネット社会の文化遺産とも呼ぶべき既存スレッドが復旧しないならば、「2ちゃんねる」の黄昏は決定的になる。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)