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球界地獄耳・関本四十四の巨人軍、ダッグアウト秘話(25) 「花は霧島、タバコは国分」

 誰からも「クロちゃん」の愛称で呼ばれる黒江さん(透修氏)は、ゴムまりみたいに打って走って、V9ナインの中では異色のファイターだった。本塁突入でも捕手に体でぶつかっていくファイトあふれるプレーで突貫小僧、豆タンクなどとも言われた。160センチ台の小柄な体で栄えあるV9ナインに名を連ねられたのは、そういった人に負けないむき出しの闘志があったからこそ。

 こういうエピソードを本人から聞いたことがある。黒江さんが二軍から上がってきて、遠征先の宿舎で麻雀をやっていたら、途中なのにエースのジョー、城之内さん(邦雄氏)から「オイ、代われ。二軍のペイペイが」と言われたというんだ。その時に悔しさを噛みしめ、「絶対にレギュラーになってやる」と誓ったそうだ。
 その言葉通り、河埜和正に取って代わられるまで、巨人軍の正遊撃手の座を守り続けたのは立派の一言だが、守りでは王さんに助けられた面もある。黒江さんの送球は、投手の変化球のようによく変化する。指が短いので、ボールをしっかり握って投げられないから、どうしてもストレートな送球にならない。でも、王さんが何事もなかったように、ファーストミットにおさめていた。
 黒江さんには、チームのムードメーカーというか、周囲を和ます雰囲気がある。宮崎キャンプの時に我々が行きつけのジーンズショップがあり、当時、裾が広がるパンタロンが流行っていた。黒江さんが得意げに買ってくると、口の悪い後輩のホリさん(堀内恒夫氏)が、「クロちゃんのは、パンタロンになる部分からカットされている」と茶化した。
 普通なら後輩が先輩にこんな口をきいたら、大変なことになる。が、黒江さんの場合は「何言っているんだ、ホリの野郎」とムキになって怒っても、周囲は爆笑で終わってしまう。チームの緩衝材なんだ。

 オレが一軍に上がった頃、ベンチにはタバコが1箱か2箱と、ライターの入った皮のケースがぶら下がっていた。誰でも自由にタバコを吸えるように設置してあったんだが、そのタバコを入れておく役が黒江さんだった。鹿児島出身の薩摩隼人。鹿児島小原節に「花は霧島、タバコは国分」とあるが、はまり役で面倒みのいい黒江さんにピタリだった。
 嫌らしい計算づくの全方位外交ではなく、天然で誰とでも仲良くなれる。長嶋さんが巨人監督の時にコーチをやり、王さんがダイエーの監督になれば、助監督で招かれる。ONだけではない。広岡さんが西武の監督時代にコーチ、ロッテのGMになれば二軍監督。森さんの西武、横浜監督時代は、ヘッドコーチとして呼ばれている。
 巨人OBだけではない。巨人のライバル・中日の近藤貞雄監督に一軍総合コーチとして招かれてもいるんだからすごいよね。コーチ、二軍監督としてユニホームを着た6球団で、優勝しなかったのは、横浜だけ。ロッテの一軍は優勝しなかったが、黒江さん自身は二軍監督として優勝しているからね。
 現在は、我々が所属しているプロ野球OBクラブの会長(全国野球振興会理事長)として、全国を飛び回っている。適材適所だと思う。これからも頑張って欲しいね、本当に。

<関本四十四氏の略歴>
 1949年5月1日生まれ。右投、両打。糸魚川商工から1967年ドラフト10位で巨人入り。4年目の71年に新人王獲得で話題に。74年にセ・リーグの最優秀防御率投手のタイトルを獲得する。76年に太平洋クラブ(現西武)に移籍、77年から78年まで大洋(現横浜)でプレー。
 引退後は文化放送解説者、テレビ朝日のベンチレポーター。86年から91年まで巨人二軍投手コーチ。92年ラジオ日本解説者。2004 年から05年まで巨人二軍投手コーチ。06年からラジオ日本解説者。球界地獄耳で知られる情報通、歯に着せぬ評論が好評だ。

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