同作は超人気アクションスターが、もし免許を持っていなかったら? という設定のもと、女優相手に醜態をさらしたことをきっかけに、免許合宿で普通自動車運転免許証を取得するまでの道のりを描くコメディーとなっている。
作中で舘は、南条弘という主役のアクションスターを演じている。しかし、作中のキャラは、かなり舘本人に寄った設定となっており、ほぼ舘本人が免許を取りに行くような雰囲気の作品になっているのが特徴。ちなみに現実の舘は、車のシーンでレッカー車に牽引してもらうなどという、恥ずかしいことはしない俳優なので、この作品でわざと下手に運転するのが大変だったそう。
こういった作品で重要な部分は、なんといっても本来の姿とは違うギャップを見せることだ。クールでカッコイイ男が、教習所という未知の場所に放り込まれ、なにもできないヘタレになる。この“ギャップ萌え”こそが、観る側を楽しませる要素になっているのだ。さらに、それを演じているのは舘ということで、役者本人の『西部警察』や『あぶない刑事』での派手なアクションシーンとのギャップも追加される。
この作品は、前半はその辺りの設定が非常によくできている。片岡鶴太郎演じる教習所の教官・暴田豪にネチネチと下手くそな運転に文句を言われたり、墨田ユキ演じる女性教官のヒールにミニスカという出で立ちに困惑したりと、色々見どころがある。舘の下手くそな運転も笑わせてくれる。運転席でのぎこちなさなどは、教習所に通った者なら、思わず「あるある!」と思ってしまうだろう。
しかし、中盤・後半はやることがなくなってしまったのか、運転技術の冴えないおっさんが、俳優・南条とバレしまった後の話の展開が微妙だ。自身がスターであることを全面に押し出してしまう部分が増え、キザなセリフやクールな振る舞いが目立つのだ。教習所にも関わらず、クールなことをやっているというギャップを狙ったのかもしれないが、これがイマイチ。教官の強烈なツッコミでもあればよかったのだが、意外と放置プレイなので、笑いどころとしては不十分だ。
中盤以降で一番笑えるのは、予告編にも使われていた「ハンコ押してくれよ!!」の部分だろうか。女性教官とバック(体位的な意味で)の会話を繰り広げなら、車庫入れするシーンは結構テンポが良くて、面白いシーンにはなっている。いや、舘がキザっぽくバックの話をしながら、あたふた運転してバックをしているだけで、もうおかしいシーンになっているのだ。
だが素直に笑えるのはその辺りまでで、後半になると、さらに微妙なシーンが多くなる。その原因のほとんどが、免許取得後に撮影予定の映画スタッフが、南条を甘やかしすぎという部分だ。これが話の展開をつまらなくしている。ちょっと車庫入れや、坂道発進を手伝うくらいならいいが、教習所を夜中に使って、スタッフ総出で運転訓練をするのはどうなのだろうか? いくらこの教習に、映画の完成がかかってるとはいえ、過剰に世話をしすぎだ。さすがにしらける。さらに最後の運転試験では、商店街の人通りを止めたり、信号に細工をして無理矢理青にするシーンなどもある。これはさすがにやり過ぎなのでは…。本人の為にもならないぞ。
なぜ、同じ合宿寮にいた若い教習生をもっと活かさなかったのだろう。何度も免許取り消しを食らって、牢名主のようなノリで、合宿所に来ているヤンキーとドタバタやらせるだけで、もっとバカバカしく面白い作品になる気がするのだが。他の教習生とアホなことをしでかして、教官や寮長などに叱責されてヘコんだシーンのひとつかふたつあれば、それだけで後半でもギャップが演出できるのにもったいない。
また、本人の「成長」を描くのにも寮は適していただろう。撮影クルーだと甘やかしの部分だけが、とにかく悪目立ちしすぎる。一度教官に注意を受けて、くじけて教習所を抜けようとするシーンがあるのだが、やはりそこは、映画のクルーになだめられるのではなく、寮の教習生に励まされたり、天下の大役者がこんなことでくじけるのかと煽られる方がより作品の“最初”の雰囲気に合っていた気がするのだが。
とはいっても、教習所に免許を取りに行ったことがある人ならば、共感するシーンが多いのにも言及しておこう。坂道発進の緊張感、目の回るバックでの車庫入れ、悪夢のS字・クランク、最初の路上教習での恐怖、場合によっては性格の悪い教官のしつこい説教などなど。教習所で苦労した経験が多ければ多いほど、当時を思い出して笑えてしまうことだろう。あと、教習所に入りたての頃の、冴えないおっさんを演じる舘も、一見の価値はある。
(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)