昨シーズン13勝をあげたとはいえ、終盤に右ヒジ痛を訴え、大事なクライマックスシリーズ、日本シリーズに投げられなかったグライシンガー。故障のリスクを考えれば、2年契約が切れたこともあり、再契約をしないと思われた。ところが、1000万円アップの年俸2億6000万円で再契約。今回の右ヒジ手術、開幕絶望は球団側の責任だろう。
「グライシンガーは確信犯だろう。オフに手術をしないで、今頃になってやったのは、この1年間、何もしないで年俸2億6000万円をもらうつもりだろう。だまされた球団フロント首脳の責任だ」。球界OBから手厳しい声があがるのもわかる。ハイリスクは素人にも歴然としていたのだから。
オフに手術したクルーンの方はまだましだが、再契約したことには、首をひねる球界関係者が多い。「去年のあの綱渡りのピッチングを見たら、解雇するのが当たり前だ。山口、越智という左右の絶対的な中継ぎエースコンビがいたから、クルーンのマイナスをカバーできただけ。今年は山口が先発に回り、クルーンの子守をする余裕がリリーフ陣にはない。巨人ファンはまた綱渡りのクルーンのピッチングに冷や汗をかくのかと思ったら、うんざりしているだろう。越智を抑えにすればいいだけのことだ」という、もっともな理由からだ。
実際にクルーンが出てくれば、相手チームの応援席から拍手喝采が起こるのだから、巨人ファンとすれば嫌気がさすだろう。足の速い走者が出て盗塁するポーズをすれば、頭に血が上り、マウンドでカリカリして自滅する。しかも右ヒジ痛を抱える、こんな火付け役の恐れがあるクルーンと現状維持の年俸3億円で契約しているのだから、球界関係者の多くが不思議がるのは当たり前だ。巨人は金満球団なのだから、余計なお世話だという反論は成立しない。身内の日本テレビからも見放されるほどで、かつての完全中継のドル箱・巨人戦は視聴率がとれず、今や完全にお荷物ソフトになっている。テレビマネー消失のダメージは大きい。
昨年、7年ぶりの日本一になっても「ウチも球団経営は正直言って苦しい。お金が無尽蔵にあるわけではない」というのが、巨人関係者の本音だ。なのに、なぜ故障持ちのハイリスクのグライシンガー、クルーンに総額5億6000万円を投資するのか。自前で計算できる新外国人投手を獲得する自信がないからだ。昨シーズン、ヤクルトを解雇された年俸3000万円のゴンザレス、育成枠の年俸480万円のオビスポの2人が救世主になり、「巨人は外国人選手も育成だ」と胸を張ったフロント首脳がいたが、実際は結果オーライで、宝クジに当たったようなものだ。
「ゴンザレスは故障があったから、クビにした。故障が治れば、ある程度はやれる力はあるが、リスクが大きすぎた」とはヤクルト関係者の弁だ。要は、巨人はハイリスクのギャンブルに勝っただけ。しかも、年俸3000万円なら外れても惜しくないという、溝ぶに捨ててもいい少額の投資だったのだ。
本当に「巨人は外国人も育成だ」と自信を持っているのならば、故障持ちのグライシンガー、クルーンの2人を解雇して、新外国人投手を獲得しているだろう。自信がないから、2人を残留させた。そして、5億6000万円もの不良債権が現実のものとなったら、「2人ともケガじゃしようがない。アンラッキーだった」などと、平然と釈明するのだろう。