「我輩は猫である」「坊ちゃん」などで有名な作家の夏目漱石はその作風とは異なり、極度の癇癪持ち、被害妄想だったと言われている。英国に留学中は勉学のしすぎから、極度の神経衰弱になった。彼は下宿の婆さんが自分を監視していると思い込み、周りの人々と衝突を繰り返した。やがて、漱石は発狂したと言う噂が立ち、彼は日本に帰国した。
高松で講師をしている時代は、向いの下宿屋の学生を探偵と思い込み、学生に向って、大声で不愉快な言葉を投げつけたという。有名な話としては、東大で講義中に壇上の漱石の前に座っている学生が片手を懐に入れたまま講義を受けていた。それに腹を立てた漱石が、懐から手を出すように注意すると、その学生は手がありませんと答えたという。すると漱石は「私はない知恵を出して講義をしているのだから、君もない手を出して聞きたまえ」と言ったという。
「一握の砂」で有名な歌人の石川啄木は浪費癖があった。新聞社で働いているときには、一か月分の月給を僅か一日で使い果たしたという。それも、自分が出版界で有名になったら、そんな金はすぐに稼げると信じていた。そんな彼も生前は金策に追われていたという。
「堕落論」「白痴」で有名な無頼派作家、坂口安吾はヒロポンなどの麻薬を常習的に使用していた。そのため異常行動が多く、全裸で街頭へ飛び出したり、精神病院へ担ぎ込まれたりすることもしばしばあった。酒が好きで、三日三晩ウイスキーを飲み続ける。腹が減れば、カレーライスを百人前注文するなど、常人離れした人物だったという。
昔の作家たちは、身を削って創作を続けていた分、現在の人間よりもスケールの大きい人間が多い気がする。彼らの作品を読むときには、作者の性癖などを踏まえて読んで見ては如何だろうか。いつもと一味違った新鮮な感覚が味わえる気がする。
(藤原真)