家庭用初のコマンド型RPG『ドラゴンクエスト』(以下ドラクエ)が産声を上げたのは1986年。わざわざ“コマンド型”としたのは、それ以前にRPGを標榜するゲームは他に幾つか存在したからだ。ドラクエがキャッチフレーズに“初のRPG”用いることができなかったのも、このことが影響している。しかしながら、それらのゲームはとてもRPGと呼べる代物ではなく、事実上はこのドラクエが家庭用初のRPGと言っても構わないだろう。
前年に『スーパーマリオブラザーズ』が登場したことで、ファミコンは本体の品薄状態が何か月も続くほどの爆発的ヒット商品となっていた。当時はこのスーパーマリオのような直感的なゲームが人気の中心であり、RPGというジャンルは一般には未知のジャンル。発売日に行列ができることはなく、またインターネットもなかった時代だから評判は口コミで広がっていった。そうやってじわじわと売り上げ伸ばしていき、最終的には約150万本のセールスを記録している。
<“変わらない”という流儀>
初代の時点でシステム的にはほぼ完成しており(ただし使い勝手が悪いコマンドは廃止されている=写真参照)、現在においてもそれがほぼそのままの形で流用されている。この点が、ライバルである『ファイナルファンタジー』(以下FF)との決定的な違いだ。FFでは毎回大きく異なるゲームシステムがウリであり、根っからのゲーマーには極めてシンプルなドラクエのシステムがどうしても物足りなく感じる。結局、そういった人々はFFを中心とした他のRPGに流れていったのだが、鳴り物入りで登場したPS3用『FF13』はマニアからも総スカンを食らうなど、その評価は惨憺たるもの。制作者のゲームに対する熱き思いがひしひしと伝わってくる場面も多々あるのだが、今回はそれが空回りに終わってしまった格好。要約するとそういうことだろう。
一方、DSで発売されたドラクエの最新作『9』は、ハードの特性を活かした「すれ違い通信」が好評を博し、発売から5か月が経過した2009年12月時点での出荷本数は、歴代最高の415万本という驚異的な数字を叩き出している。定価もプラットフォームも異なるため数字だけの単純比較は危険だが、数百万本の差というのはやはりあまりにも大きすぎる。
システム同様、ドラクエのストーリーは単純で分かりやすい。大概はプレーヤーが期待した通りの大団円で幕を閉じ、クリア後はまるで「水戸黄門」のような心地良さが残るのである。つまるところ、それは多くの日本人の心に響くのだろう。対するFFは「裏切り」や「謀略」が散見され、それはさながら政治の世界を彷彿とさせる。筆者も一時はFFに傾倒していたこともあるからそれを真っ向から否定するわけではないが、大人になるにつれて“汚い”世界は政治だけで結構…との思いが高まっていったのも事実だ。
日本のRPGをリードしてきた両雄が、今はともに「スクウェア・エニックス」という同じメーカーから発売されているのは、我々オールドゲーマーにとって非常に感慨深いものがあり、そして同時に少し寂しくもある。(文=内田@ゲイム脳)
DATA
発売日…1986年5月27日
メーカー…エニックス
ジャンル…RPG
(C)1986ENIX